印度學佛教學研究
Online ISSN : 1884-0051
Print ISSN : 0019-4344
ISSN-L : 0019-4344
ニヤーヤ学派における三時の理論――中観派および説一切有部との関係を中心に――
渡邉 眞儀
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 66 巻 3 号 p. 999-1003

詳細
抄録

ニヤーヤ学派の伝統説は,『ニヤーヤスートラ』(以下NS)およびその注釈である『ニヤーヤバーシュヤ』(以下NBh)に代表される.両文献では,推理(anumāna)の対象に関する議論の一環として三時の考察が扱われている.そこで展開される時間論は,(1)過去・未来の存在を認め,現在のみを否定する論者を対論者としている点,(2)作用の有無を三時の決定要因としている点に特色がある.

このようなニヤーヤ学派の時間論は,特に仏教の中観派の議論や,説一切有部の三世実有説との関連から注目され研究されてきた.しかし仏教学説の具体的な影響の度合いについては,先行研究の見方が分かれている.本稿ではこの問題について,仏教側の資料も含めて改めて検証した.まず対論者の見解を扱ったNS 2.1.39については,三時における行為を否定した『根本中論頌』(MMK)第2章のうちで,現在の行為を否定するMMK 2.1を抜き出し,それに対する中観派内のある特定の解釈を引用したものであると結論出来る.また,NS 2.1.40に見られるニヤーヤ側の主張は作用に着目して三時の区別を論じたものであり,これは三世実有説の中でヴァスミトラの説と近い.一方で,NS 2.1.40とブッダデーヴァ説との類似性を,‘‘apekṣā’’という語が両者に共通して現れることに基づいて主張する見解もある.しかしこの語は前者では「依存」,後者では「関係」という別々の意味で用いられている.したがって,両者の説に類似性を認めるべきではない.

以上のようなNSおよびNBhの時間論の概要からは,ニヤーヤ学派の学説の形成過程における仏教との複雑な相互作用の一端が見て取れる.ニヤーヤ学派は仏教側の主張の全体を引用するのではなく,必要に応じて換骨奪胎し,自説の補強に役立てたと言える.

著者関連情報
© 2018 日本印度学仏教学会
前の記事 次の記事
feedback
Top