印度學佛教學研究
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『瑜伽師地論』「声聞地」における世間道と涅槃――第四瑜伽処を中心に――
中山 慧輝
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1176-1179

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抄録

インド仏教の瑜伽行派が基本典籍とする『瑜伽師地論』の最古層に属する「声聞地」は,4つの瑜伽処から成るが,第三瑜伽処において(1)入門から師に学ぶ準備段階を説き,第四瑜伽処において(2)世間道と(3)出世間道を順番に説く.ヨーギンは(1)準備段階を終えると,(2)世間道か(3)出世間道のいずれかを選択する.(2)世間道に進むと,初禅から非想非非想処までの色界と無色界の禅定である八定を修習し,五神通の獲得と色界や無色界に属する天界への再生を目指す.また,(3)出世間道に進むと,四聖諦を観察し,阿羅漢果の獲得,つまり涅槃への到達を目指す.このような「声聞地」の修行体系に対して,先行研究は,世間道と出世間道をそれぞれの目的に沿って別立てする枠組みこそが「声聞地」の修行体系の特徴であり,「声聞地」より後に編纂されたとされる「摂事分」になって初めて,『瑜伽師地論』においては,世間道から出世間道へ進む修行道の一本化がされたと指摘する.本稿では,第四瑜伽処に説かれる,世間道あるいは出世間道に進む場面の記述をもう一度整理し,一部の仏教徒(以前に止を行じたことがあるが,鈍根である者,または,鋭根ではあるが,善根が熟していない者)が,世間道を経てから出世間道へと進む可能性を提示する.さらに,そのことを示すことによって,「摂事分」で明らかにされる世間道から出世間道へという修行体系の萌芽が「声聞地」に見られることを指摘する.

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© 2020 日本印度学仏教学会
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