印度學佛教學研究
Online ISSN : 1884-0051
Print ISSN : 0019-4344
ISSN-L : 0019-4344
インド密教における末世観と成就
藤井 明
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 69 巻 3 号 p. 1118-1123

詳細
抄録

密教経軌中には,末世の行者,衆生を形容する種々の記述が認められる.しかしながら,これまでの密教研究においては,密教経軌中の末世観について扱っているものは少なく,各密教経軌中における末世に対する密教行者の思想と,末世への対応がいかになされてきたかを知ることが出来ない.本論文では,Mañjuśriyamūlakalpa (MMK)やAmoghapāśakalparāja (APK)あるいは仏教版Bhūtaḍāmaratantra (BBT)を始めとする,サンスクリットが現存する密教経軌を主たる典拠として,密教経軌中に見ることの出来る「末世」「末法」「仏滅後」という記述を提示し,密教行者たちの末世観と,その思想に対する態度を明らかにした.

用例の分析をした結果,いくつかの密教経軌中には末世における密教行者の成就に対する渇望が明確に見て取れた.また,これらの記述は未来世にあっても成就があることを示し,儀軌あるいはマンダラやマントラなどが如来の代わりとなるという,言わば悪世における解決策を示している.これは,種々の未来世の記述が,密教経軌の力や有用性を示すための要素として機能しているとも言い得るであろう.密教経軌中の末世観に関わる記述においては,密教的なマンダラや陀羅尼,成就法の力を主張することに力点が置かれていると言える.本論文で挙げた記述には,未来世に対する言い知れぬ不安を読み取ることが可能であり,またこれらの記述は未来世における不安感を払拭する機能を持っている,と言えるだろう.

著者関連情報
© 2021 日本印度学仏教学会
前の記事 次の記事
feedback
Top