2022 年 70 巻 3 号 p. 1169-1172
本論文はガンターパ著作のŚrīcakrasaṃvarasādhana(『吉祥なるチャクラサンヴァラの成就法』)の構造と特色を明らかにすることを目的とする.本テキストはサンスクリット写本が見つかっておらず,チベット語訳しか現存しない.Śrīcakrasaṃvarasādhanaの重要性にかかわらず,これまで研究が少ない.ガンターパの成就法はチャクラサンヴァラの生起次第を修習する修行者向けのテキストである.成就法では,修行者が自身の身体の粗大な部分を所依曼荼羅として観想し,身体の微細な要素に37尊の能依曼荼羅を布置する.他流派と比較し,ガンターパは身体曼荼羅を重要視する傾向がある.また,修行者が自身の身体を所依曼荼羅として観想する方法はガンターパ独自の方法であると言える.テキストは非常に短く難読であり,修習するには註釈書が必要であろう.本成就法に描かれる観想法は今日でもチベット仏教の修行者の間で使われていることが,チベット仏教におけるこの成就法の重要性を表している.