印度學佛教學研究
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二諦分別論研究 (III)
赤羽 律
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2006 年 54 巻 3 号 p. 1221-1225

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抄録

8世紀初頭 Jñanagarbha によって著作された『二諦分別論』(Satyadvayavibhanga) は,チベット語訳でしか現存していないため, 不明な点が数多く残されている. それら不明な点を解決する手段の一つとしてチベット人による注釈書の活用が考えられる. 今回, 19世紀に活躍したチベット僧 Ngag dbang dpal ldan によって著作された仏教四大学派の二諦説に関する論書 Grub mtha' bzhi'i lugs kyi kun rdzob dang don dan pa'i don rnam par bshad pa を活用することで,『二諦分別論』に関する以下の三点を明らかにした. 1.『二諦分別論』第9偈bcはチベットにおいて異本がよく知られているが, 正しいのは本来の『二諦分別論』に見られる偈であること. 2.『二諦分別論』の Eckel 氏のテキストにおいて, bsnan という語が二箇所見出されるが, これは brnan と修正されるべきであること. 3. Ngag dbang dpal ldan は同論書の中で, bDen gnyis kyi day tika という名前のみとしてしか知られていない Dar ma rin chen の『二諦分別論』に対する注釈書を6回引用するが, その中の一箇所が, 別に引用されている bDen gnyis kyi rnam bshad snying po gsal byed と呼ばれる『二諦分別論』の注釈書の内容の一部と一字一句違わず一致する. このことから, bDen gnyis kyi dar tikaとしてこれまで知られてきた Dar ma rin chen の『二諦分別論』の注釈書の正式書名は bDen gnyis kyi rnam bshad snying po gsal byed であると想定されること.

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