伊那谷自然史論集
Online ISSN : 2424-239X
Print ISSN : 1345-3483
東日本のブナ林に出現する広葉草本種の生育立地は太平洋側と日本海側でなぜ異なるのか
-植生地理・植生史的視点からの1考察-
蛭間 啓
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2012 年 13 巻 p. 31-38

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抄録

東日本冷温帯において,サラシナショウマ, キバナアキギリなど特定の広葉本草種群は, 太平洋側ではブナ林に生育するが, 日本海側ではブナ林に隣接した別の環境に生育が限られる. このような広葉草本種の生育立地の地理的差異について,その背景を植生地理, 植生史的視点から解析, 考察した. 対象となる広葉草本種群の東アジア地域における地理分布と, 東日本における生態分布について文献調査を行った結果, それらはブナ林よりもミズナラ林との関係が深い種群であると考えられた. 最終氷期最盛期の約2万年前, 日本列島は寒冷・乾燥な気候条件下にあり, 地域に関係なくナラ類がブナ属より優勢であり, 後氷期初期においてもコナラ亜属がブナ属よりも先に増加, 優占したとされている. 以上のことから, つぎのような考察を行った. 生育立地に太平洋側と日本海側で差異がみられた広葉草本種群の多くは, 最終氷期最盛期から後氷期初期までのナラ類を優占種とする夏緑広葉樹林に広く生育していた. 後氷期中期以降のさらなる温暖湿潤化にともない, 多雪化した日本海側を中心にブナが優占域を広げ, ナラ類を中心とした夏緑樹林の内陸地域への分布の縮小と同時に, 一部の広葉草本種も分布域を縮小させた. 太平洋側では一部のブナ林にそれらの種が残存したが, 広葉草本種の多くは日本海側の多雪化に伴う林床環境の変化によって林床に生育できず, 小谷の谷壁斜面や渓畔域などをレフュージア(逃避地)とした.

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© 2012 飯田市美術博物館
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