ドイツの地理学者,ヨハネス・ユストゥス・ライン(1835-1918)は,1873 年〜1875 年の2 年間,プロイセン王国政府からの委嘱により日本各地の工業・商業を調査したが,個人的興味から日本の地形・地質・植物・気象等の自然についても熱心に観察した.今回,数あるライン博士の日本旅行記のうち,1875 年夏季,東京を発って中山道沿いに武蔵,上野,信濃,美濃の国々を旅行したときの記録「東京から京都への旅」を邦訳,紹介した.この論文ではとくに,信濃が周囲を険峻な山脈に縁取られた高地であること,中山道の国々と北陸道の国々との境界をなす山脈が冬のシベリヤ季節風に対する大きな気象境界であることなどが強調されている.追分・和田間の中山道沿いのチョウセンニンジン栽培や,御嶽山の多様な植物相についても,詳しい記述がある.