長野県飯田市座光寺の天竜川において,オイカワの形態変異個体を捕獲した.体長92mm の個体は,銀白色の体側,大きな鱗と尻鰭といったオイカワの特徴を有していたが,高い体高,広い体幅や頭幅,丸みを帯びた吻端が通常のオイカワと異なっていた.捕獲場所のワンドには,オイカワに近縁で国内外来種のカワムツが多数生息することから,カワムツとの交雑を疑い,両者の形態比較及び遺伝子解析を行った.形態比較の結果では,カワムツよりの形質もみられたが,核DNA の3 遺伝子座の塩基配列を比較した結果,オイカワとカワムツの交雑である証拠は認められず,形態変異個体はオイカワであると考えられた.オイカワのように性的二型を示す魚類では,二次性徴を発現する過程でこのような変異個体が出現する可能性が考えられ,形態形質から交雑を判断する際には注意が必要であることが示唆された.