電氣學會雜誌
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5. 電力設備の雑音と対策
5.1 送電線コロナ雑音
中村 宏
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1969 年 89 巻 970 号 p. 1230-1235

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抄録

雨の激しい暗夜,実験用送電線に定格電圧の数割高い電圧を印加すると,電線は夕だちのような激しい放電音を発生しながら淡い真珠色の長大なネオンのように輝く。第5.1図は4導体の2回線送電線のコロナ放電の情況を撮影した写真である。
もっとも,この写真はカメラのシャッタを約2分間開放して撮影したものだから,何万回とくり返えされた放電の光の集積を示しているものであり,肉眼ではこれほど詳明には見えない。暗闇になれた目でじっとひとみをこらしていると,あたかも電線の周囲にたくさんのほたるが群れているかのようにちかちかと光って見えるのである。
望遠レンズを使ってこの放電の様子を詳しく観察すると,電線表面の放電には第5.2図に示すように,
(i) 電線からほとばしり出るように,先端が枝分れしながら激しく光る強い放電
(ii) 淡い光を発しながら比較的安定して持続する弱い放電の2種類があることがわかる。さらに,ストロボスコープによってこの放電を正負に分離して観測すると,
(i) は正半波において発生する正コロナであり,(ii)は負半波において発生する負コロナであることが確認される。
次に,シンクロスコープによってこれらの放電の波形を観測すると第5.3図を得る。負コロナパルスは波頭長0.01μsに達するきわめて急しゅんなパルスであり,正コロナは波頭しゅん度は負コロナより低いが,振幅は数倍に達するきわめて強い放電であることがわかる。(1)
送電線のコロナ雑音は,このようなコロナパルスが送電線上の何百万箇所かで,1秒間に何万回かくり返えして発生することによって生ずる高周波雑音である。コロナパルスの波頭しゅん度から考えると,そめ雑音の周波数スペクトルは数十メガヘルツ以上の高い周波数にまで広がっていることが予想されるが,実際上は受信機の内部雑音以下の強さの雑音は問題にならない。
このため,電線から発生するコロナ雑音が電波障害上の問題となるのは,主として中波のラジオ受信機(受信周波数540kHz~1.6MHz)に対してであり,テレビジョン放送(使用周波数90~222MHz,590~770MHz)およびFM放送(使用周波数76~90MHz)に対してはほとんど問題にならない。また,ラジオ放送でも都市近郊のように放送局からの電波が強い所では,じゅうぶん信号対雑音比が確保されるから受信障害とはならない。受信障害は放送局から非常に遠く離れている地方や山にさえぎられて放送電波がよく届かない弱電界地域において,放送波に対して雑音の割合が大きくなった場合にのみ発生するのである。

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