抄録
現在空間の明るさを表す単位として主に照度が用いられている。しかしこの測光量だけで人間が認識する空間の明るさ感を正しく表すことができないという問題が、多くの研究者によって指摘されている。我々は空間の明るさ感はその空間の照明状況の認識に基づく感覚であると考え、照明の強さに対する認識の定量化を試みてきた。これには無彩色のテストパッチの色モード境界輝度を用いる。色モード境界輝度とは、物体表面の色の見えのモードが、その環境において「自然な物体表面の色」から「物体としては不自然な色」へと変化する境界の輝度である。本実験では不均一な照度分布を有する照明環境を数種類用意し、各照明環境下において境界輝度の分布を調べた。異なる照明環境間で境界輝度を比較することにより、境界輝度に加法則が成り立つことが明らかになった。つまり複数の照明器具によって照明された環境の境界輝度の分布は、それぞれ単独の照明器具によって照明された環境の境界輝度の分布の和で表現できる。これにより複雑な照明環境においても、単純な照明環境の境界輝度の和で表現することができるため、照明設計に応用するうえで本手法は非常に有用であるといえる。