2003 年 13 巻 4 号 p. 4_95-4_113
本稿は,被保険者の自己負担率の変化が医療サービスの需要と供給にどのような変化をもたらすかを理論的に分析するモデルを提案し,97年9月に健康保険組合の被保険者本人の自己負担率が1割から2割に変更された結果,被保険者の歯科サービス需要および医師の歯科サービス供給に変化があったかどうかを統計的に検証した。通院日数についてHurdle Negative Binomial Modelを用いて推定した結果,改定の前後1年間で被保険者本人の通院日数は減少したが家族のそれは変化しなかった。他方,医師の供給行動分析のために改定前後1年間両方に1日以上通院している患者の1日あたりの医療費を比較したが,その差の期待値が0であるという仮説は15%有意水準では棄却できたが10%水準では棄却できなかった。改定によって1日あたり医療費の期待値には変化がなかったと強くは主張できないが,ほとんど変化はなかったと考えてよいであろう。