2004 年 14 巻 1 号 p. 1_37-1_49
介護分野において従来の施設か在宅かの二者択一に代わる,第三の介護サービス提供拠点が注目を集めている。本研究では,第三のサービス拠点の一つであるケア付住宅を事例として取り上げ,アンケート調査などを通じて介護問題について考察した。
ケア付住宅入居者の家族に対するアンケートから,(1)24時間365日安心して暮らせること,(2)生活の継続性が確保され,在宅の雰囲気が味わえること,(3)家族が介護から解放されることが,家族の要望であると解された。これら(1),(2)については家族,入居者本人ともに要望に乖離はないと思われるが,(3)の家族介護の解放については,両者の願いは一致していなかった。
どのような産業においても,消費者の視点は重視されているが,これは介護分野においても同様と言える。ただし介護分野の特徴は,消費者が要介護者とその家族の2人いることである。この2人の消費者の要望は,在宅介護に関して相容れにくいものであり,その調整は困難と考えられる。
上記の課題を残しながらも,当該ケア付住宅は,24時間365日,最後まで面倒を看てもらえるという施設のメリットと,小規模(9人以下)で原則在宅に近い状態で個人の自由なペースで生活が出来るという在宅のメリットを併せ持ち,新しい介護のサービス・場所を提供している。更に,社会資源的にみても従来型の施設よりは資金効率や資源の有効活用の点でメリットがあり,当該サービスに対する何らかの公的支援や利用者負担の格差是正が求められる。
豊かな高齢社会を築くためにも,今後は詳細な消費者ニーズの実証的分析が必要であり,それに合わせた介護サービスの開発が求められる。