医療と社会
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情報の非対称性のもとでの医療技術の選択と最適医療保険
中泉 真樹
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2004 年 14 巻 3 号 p. 3_111-3_125

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抄録

 本稿では,医師と患者のあいだに情報の非対称性が存在するとき,医師をより効率的な医療技術の選択へと動機付ける問題を包摂した,最適保険の制度設計について考察を試みる。複数の医療技術が選択可能であると想定し,医師は効用を最大にするように患者に対して治療の推奨を行うとする。また医師の効用は治療による利潤マージンと患者の治療後の健康水準に依存するとしよう。さらに被保険者の重篤度は観察できないとし,したがって保険契約は重篤度に応じた保険給付を指定できないとする。
 分析結果は以下のようになる。第一に,患者の最適自己負担率は,危険回避度が高ければ,医療技術の高度化あるいは高額化とともに逓減する傾向を示す。第二に,最適な診療報酬価格は,医療技術ごとにきめ細かく指定され,より高額な医療技術を選択しようとする医師固有の誘因を抑制するように工夫される。その価格体系は非線形であり,現行の出来高払い制度とは異なる。分析結果の政策的含意のひとつは,たとえ情報の非対称性や医師独自の行動誘因があるにせよ,適切な診療報酬価格体系の実施をともなうかぎり,保険によるリスク分散を十全に機能させうることが明らかにされたことである。この点に照らせば,現行でのいわゆる「混合診療」の禁止は非効率的であると考えられる。医療制度改革にとって喫緊の課題のひとつは適正な報酬価格体系をいかに設定するかである。

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© 2004 公益財団法人 医療科学研究所
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