2018 年 28 巻 1 号 p. 129-139
近年,患者・市民参画(PPI)は医薬品開発の過程においても重要視されている。しかしながら,日本では医薬品開発における患者・市民参画政策は本格的に導入されていない。本稿では,既に倫理指針で参画が必須とされている,倫理審査委員会における「一般の立場の委員」の役割を再検証しつつ,今後の患者・市民参画政策の展望を述べる。「一般の立場の委員」の出席は現行の倫理指針において開催要件とされているが,期待される役割や機能の記述は不十分である。この状況は,約30年以上も不連続な議論を続けてきた米国での状況とも類似している。そこで,「一般の立場の委員」をめぐる議論を深めるために,生命倫理学者のレベッカ・ドレッサーが提案する「経験ある被験者」の包摂という考え方を紹介したい。また,「経験ある被験者」の可能性を探るため,著者は日本で過去5年以内に治験に参加した経験をもつ患者に対して調査を実施した。その結果,1,473名の回答者のうち70%近い回答者が,研究対象者への配慮や説明文書に対する意見を示す意欲を示していた。今後,研究過程のあらゆる段階に患者・市民参画が保証されるためにも,「一般の立場の委員」の役割についてより明確な議論を進めるとともに,「経験ある被験者」の養成などを進める必要があるのではないか。