2019 年 29 巻 1 号 p. 45-58
我が国の地域包括ケアシステムは,いまだ認知症高齢者の在宅ケアのニーズに焦点を当てている段階だが,すべての年齢層の地域住民の,すべての健康ニーズの,すべての種類のケアを対象とするサービス提供体制を地域の実情と課題に応じて調整する取り組みが,今後目指すべき進化型地域包括ケアシステムであろう。これは質の高いプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の整備に他ならず,アルマ・アタ宣言40周年の2018年10月に採択されたアスタナ宣言でも,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジと持続可能な開発目標達成のために必須のものとして強調されている。本稿では,2006年3月の設立から現在までの13年間に福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座が実施した多彩な取り組みのプロセスとアウトカムを紹介する。取り組みには,県内6ヵ所の地域にある診療所と病院に立ち上げた家庭医・総合診療専門医の育成拠点での行政および多職種との連携,災害時の対応,PHCを担う人材を育成する卒前卒後一貫した教育,ホームステイ型医学教育研修プログラム,メンタルヘルスでの指導医の質向上プロジェクト,修学資金制度およびへき地での医師のキャリア形成,そして海外とのベンチマーキングが含まれる。当講座はこれからも,PHCの専門性と家庭医療学の原理を十分に理解して実践できる専門指導医群を育成し,彼らのリーダーシップでPHCの整備を広域で進めていけるように継続して支援をしていきたい。