この数十年,医療を取り巻く社会的な変化は,患者-医療者関係を大きく転換させてきた。慢性疾患の増加に伴い,患者と医療者との長期的な治療関係や治療過程における患者の主体的な参加が求められる中で,いわゆる伝統的な父権主義的患者-医師関係から,相互参加型の患者-医師関係が模索されてきた。そこにおいて,目指されてきたのが患者と医療者による意思決定の共有(Shared decision making:SDM)である。生命へのリスクが高く,しばしば複数の治療法の選択肢が存在するがん診療場面は,早くからSDMの重要性が注目されてきた領域である。マスメディア,インターネットなど,保健医療に関する情報が増大し,情報源が多様化する中で,患者自身が適切な情報を収集・活用し,主体的に治療や意思決定に参加していく力の重要性は増している。SDMの実践は,参加に消極的になりがちな人々,不利な立場にある人々も含め,治療のプロセスへの参加を促し,納得のいく決定ができるように支援することで,健康の不平等の解消にもつながる可能性がある。