医療と社会
Online ISSN : 1883-4477
Print ISSN : 0916-9202
ISSN-L : 0916-9202
医療連携におけるリレーションシップ・マーケティング
井上 淳子冨田 健司
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 12 巻 3 号 p. 61-83

詳細
抄録

人口動態の変化や患者ニーズの多様化,医療改革による医療費削減などにより医療機関を取り巻く環境は厳しさを増している。ビジネスの世界では,厳しい環境下で企業が安定的な存続と成長を実現するために,他の組織と協調的な関係を結ぶ傾向が強まっている。組織同士が協調的な関係を結ぶ現象は,医療業界においても医療連携という形で見られるようになった。機能分化や医療資源の効率的活用が叫ばれる今日,連携の重要性はますます高まっている。医療連携の推進に積極的な医療機関は増えつつあるが,連携の一評価指標である逆紹介率や開放型病床の稼働率の低さが指摘されるように,現時点で連携が十分に機能しているとは言い難い。まだ多くの医療機関がその方策を模索している段階にある。
地域の中核的な医療機関が周辺の医療機関との連携を促進するために実施している医療連携推進事業などの活動は,マーケティングの観点から見るとリレーションシップ・マーケティングと解すことができる。
本稿では,リレーションシップ・マーケティングのフレームワークを用いて医療機関同士のリレーションシップ構築メカニズムを探り,医療連携を効果的に機能させるための要件を導出した。調査分析の結果,医療連携におけるリレーションシップは相互依存度が低いため,関係解消コストや相手の機会主義的行動に対する脅威が小さく,関係の自由度が高いという特徴が明らかになった。関係の継続を規定する拘束的要素の影響が小さい代わりに,リレーションシップによってもたらされる実利的なベネフィットが,連携参加への強いインセンティブとなっている。
したがって,医療連携リレーションシップの成功は,代替の医療機関よりも優れた資源,機会,ベネフィットを提供し,価値ある情報を含んだ質の高いコミュニケーションを行なうことが決め手であり,それによって当事者双方とも確実なメリットを享受することが可能になると考えられる。

著者関連情報
© 医療科学研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top