医療と社会
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介護サービスの需要構造から見たシルバーサービス振興課題
阿部 信子
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1996 年 6 巻 1 号 p. 60-79

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抄録

高齢化の進展につれ,高齢者ケア・ニーズは質的な多様化を伴いながら量的に急拡大していく。この高齢者ケア・ニーズに的確に対応する上で,公私両セクターの役割分担と連携が求められる。
しかしながら,高齢者ケア・サービスを供給する新しい産業,すなわちシルバーサービスは,現状,揺籃期を脱していない。それは,1.シルバーサービスに対する社会の認知度が必ずしも十分ではないこと,2.一部のシルバーサービスは,措置費によって提供される極めて安価な公的サービスと競合していること,3.事業者の大部分が中小零細企業であり経営資源が脆弱であること,などに起因している。
シルバーサービスの発展は,民間企業が創意と工夫を発揮し,利用者に選択される良質で多様なサービスを提供することが基本である。しかしながら,そうした事業展開を支援する,体系的・戦略的な振興策の実施も求められる。シルバーサービス市場の将来像を示し,新規参入促進のシグナルを発するとともに,現在,市場拡大の阻害要因となっている制度環境等を整備することが必要である。
本稿は,平成7年3月に発表された「シルバーサービス振興ビジョン」をベースとして,在宅サービスの推計ニーズ量およびサービスに対する利用意向度などを踏まえたシルバーサービス振興の課題をまとめたものである。前半においては,高齢者ケアにかかわるサービス・ニーズを推計し,新ゴールドプランによる公的サービスがそのニーズをどの程度満たすのか,また民間部門として見込むことのできる市場規模がどの程度であるのかを推計した。後半においては,公的介護保険制度の導入によりもたらされる高齢者ケア・サービスの価格(利用者負担額)低下が,どの程度需要を顕在化させるかを推計した。
膨大な高齢者ケア・ニーズに対応していくためには,シルバーサービスの参画が欠かせない。公的介護保険制度の下で,公私両セクターの競争条件を同一化し,シルバーサービスに公正な競争の機会を与えることが期待される。

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