患者と医療者が臓器移植推進の鍵となると期待していた臓器移植法が施行されて10月16日で1年が過ぎた。しかし今も,臓器提供の不振は改善されず,その問題点を論じる意見は多い。しかし,その多くは患者側の視点に立つ情緒的見解の域をでていない。移植治療は,一般医療と認められつつあるにもかかわらず,その治療に不可欠な臓器とその移動について広い視点での理解が十分なされていないのである。従来の医療者と患者の視点だけではなく,潜在的提供者を含む社会の視点を取り入れることによって,この問題についての社会の認識レベルを向上させなければ,臓器問題は,解決しないと思われる。そのためには,まず個人財である臓器が提供者から被提供者への移動の形態とそれに伴なう諸問題を明らかにする必要がある。
本稿は,社会学的視点に立脚し,臓器移植に関わる問題,とりわけそこで発生する生体間臓器移動の現象をどのように考えればよいのか,またそれをどう分類すればよいのかを検討する。そのために,従来から展開されてきた社会学的交換理論とそれに関連した血液ドナー,骨髄ドナーについての研究をレビューする。ついで,その上に立った筆者自身による調査分析を加え,臓器の移動形態に関わる諸問題を考察する。