2018 年 50 巻 p. 58-48
本稿は、吉本弥生との共同研究「三島由紀夫『近代能楽集』研究」の一環であり、研究(一)では、『近代能楽集』の数ある戯曲のなかでも「葵上」を扱い、佐々木は謡曲篇として『近代能楽集』「葵上」が典拠とする謡曲『葵上』の研究を行い、吉本は戯曲篇として『近代能楽集』「葵上」の研究を行う。 この謡曲篇では、本説である『源氏物語』と現行の謡曲『葵上』、および犬王道阿弥が演じたと伝えられる近江猿楽系の古態能『葵上』との異同を検討するが、本研究の目的は、時代によって変遷する文芸作品からその時代の思潮や心性を明らかにすることであり、思想史解明のために謡曲を研究するという立場をとる。具体的には『源氏物語』から『葵上』への変遷から室町時代の思潮を探るが、それを野上豊一郎の提起した「シテ一人主義」、また、近年注目されるようになっている「冥顕構造」という枠組みによって考察する。