本稿では、三島由紀夫『近代能楽集』より戯曲「葵上」を取り上げ、『源氏物語』や謡曲「葵上」との比較から、三島由紀夫の作品世界を考察する。中でも、六条康子の愛に着目し、病院や看護婦のいう「リビドオ」との差を検討する。そこには、「情念」とそれを排除することで苦しみを克服しようとする姿が確認される。他方で、三島由紀夫の作品世界は、現代における演劇や映像化によっても芸術的昇華を果たしている。三島の能への関心、及び、当時の海外での上演を含め、三島の作品がどのように受け止められ、現代に生きているかを考察する手がかりとして、戯曲「葵上」の作品分析をおこなう。