1978 年 32 巻 5 号 p. 614-619
心タンポナーデは, 心, 大血管の破綻によるものが最も多いが, 悪性腫瘍の心嚢転移によるものは, 比較的徐々に心嚢内に液が貯留するため, 単なる心不全と誤られることも多く, 注意を要する. 我々はそのような例を, 最近2例経験した. 共に肺癌の転移によるもので, 初発症状はタンポナーデによるものであつた. 剖検所見では, 高度な心転移を生じているにもかかわらず, 他の部位には附近のリンパ節以外転移を認めなかつたことが注目された. また, この2例に共に認められた電気的交互脈の成因については, 振子様運動説と伝導障害説があり確定はしていない. 我々の例では, 共に心筋にも広範に癌の転移が認められたことより, このような心筋の障害の存在も, 電気的交互脈発生に必要な条件の一つではないかと推測した.