2008 年 62 巻 12 号 p. 684-688
症例は28歳の女性, ミトコンドリア病(MELAS)に対し内服治療中であったが23歳時より在宅管理が困難となり重症心身障害者病棟に措置入院中であった. 1年前から経口摂取はほとんど不能となり持続的に経鼻胃管からの経管栄養が行われていたが今回, 胃管入れ替えの5日後に多量の上部消化管出血がありICUに転入, 救命処置にもかかわらず死亡した. 剖検所見では, 慢性的な食道潰瘍穿孔部が左鎖骨下動脈起始部に交通しており, ここからの大量出血で死亡したと判断された. 本例は先行する異物誤飲による縦隔炎などの所見もなく, また左鎖骨下動脈起始異常や動脈硬化などによる鎖骨下動脈瘤もともなっていなかったため, 長期の経鼻胃管留置による慢性的な圧迫から食道潰瘍を生じ左鎖骨下動脈-食道痩を形成したと考えられた. まれな症例とは思われるが, 経鼻胃管留置によっておこりうる重篤な合併症と考えられ今回報告した.