2020 年 18 巻 p. 64-85
日本で暮らす移民女性のうち増加が著しい留学生や技能実習生の多くは,15歳から49歳までの生殖年齢層である。しかし,その中には「妊娠してはならない」,「妊娠したら帰国させる」と警告を受けている人もいる。解雇や退学処分を恐れて,自己服薬による中絶を試みたり,行き場がなく在留資格を失った状態で出産したり,帰国後も子どもの養育上の困難に直面するなど,彼女たちの心身の負担は大きい。本研究は,文献調査のほか支援者と当事者への聞き取りから,留学生と技能実習生の妊娠をめぐる課題を明らかにすることを目的とする。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)や移民に関する国際規範と日本政府の施策には乖離がある。移民女性のうち,技能実習生は労働関係の法令で守られるが,その運用は限定的である。留学生が妊娠し,教職員に早めに相談しないで欠席が続くと退学に追い込まれることがある。妊娠により休学した留学生を在留資格の取り消しから除外することも明文化されていない。彼女たちが妊娠しやすい背景のひとつに,出身国と日本で用いられている避妊の選択肢の違いがある。移民女性のSRHRをめぐる予備的考察から,日本で暮らす女性全般に共通する課題を探り,今後求められる調査を展望する。