抄録
組織コミットメントは組織に対する献身や愛着などに基づく組織との絆であるが、テレワーク導入により対面でのコミュニケーションが減じたり、制限されたり、組織に所属しながら組織にいないことで組織に対する愛着や忠誠心が減衰することは十分に考えられる。一方で、ICTと組織コミットメントとに関係がないとする先行研究もある(Jacobs, 2004)。また、ICTの利用が間接的に組織コミットメントに関係しているという研究も散見される(e.g., Snyder & Cistulli, 2020)。ICTの利用が組織コミットメントを高めるのか、減じるのかは議論の余地があり、直接的に関係しているのか否かも明確ではない。つまり、単にICTを導入し、効果的に利用することだけでは、組織に対する愛着や忠誠心などに強い影響を与えるかどうかは不明である。何らかの媒介する変数があるとも考えられる。これまでも対面での情報交換の適切性などの適切な組織コミュニケーションが、組織組織コミットメントと関係があるという報告は少なからずある(e.g., Carriere & Bourque, 2009)。そして、ICTはコミュニケーションの手段であるから、それを適切に使うことはコミュニケーション(情報伝達など)の効率や質などを改善することはまちがいないであろう。しかし、これら三者(ICT、組織コミュニケーションの適切性、組織コミットメント)の関係に関してはまだ十分に調査されておらずこれを明らかにすることは学術的意義がある。本研究は、組織におけるICTの有効利用と組織コミットメントの関係への組織コミュニケーションの媒介効果モデルを検証し、三者の関係を解明することを目的とする。実践的寄与としては、現在までに発展している最新ICT利用による情報交換の十全性かつ円滑さや対人交流の制限・限界が組織コミットメントにいかなる影響を与えるのかという研究は、テレワークを経験したあるいは現在もしている従業員が少なからず存在する組織にとって、今後の働き方の形態を考えるうえで有益な情報を提供しうる。本研究の目的のために、2021年12月にインターネットで質問票調査を行い、ホワイトカラーワーカー企業従業員500名からデータを得た。共分散構造分析(SEM)を行い構築した理論モデルの適合性を分析し、さらに組織コミュニケーションの媒介効果を明らかにするためBootstrap testにより内生変数(組織コミュニケーション)に対する外生変数(組織コミットメント)の媒介変数を介しての間接効果を分析した。外生変数のICTは、従来型のメディアとしてE-mail、COVID-19感染にともない急速に普及したウェブミーティングメディア(Zoomなど)、組織の中で使われる比較的新しいが従来から普及している社内グループウェアの3つである。内生変数は、情緒的コミットメント、規範的コミットメント、継続的コミットメントの3次元の組織コミットメントである。そして、媒介変数の組織コミュニケーションはオープンコミュニケーション風土、直属リーダー・上司からのダウンワードミュニケーションおよび組織(トップマネジメント)からの情報受信量満足の3次元である。合計27のモデルを分析した。分析の結果、テレワークそのものは、働く人の組織コミットメントには関係がなかった。すべてのモデルで組織コミュケーションの完全媒介か部分媒介の効果が認められた。しかし、ICT有効利用と組織コミットメントは直接的関係があり部分媒介が認められたモデルでも、両者の関係は非常に弱いものであった。それぞれのモデルの検証結果の違いやそれぞれの変数間の関係について本文では十分議論をしている。COVID-19感染拡大をきっかけに働き方が大きく変わった今、組織内のコミュニケ―ションの手段として主流になりつつあるICTの有効活用が働く人々の組織への絆の気持ちの強さとどのようにかかわっているのかを示したことは、学術的にも実践的にも意義があるといえよう。