ボランティア学研究
Online ISSN : 2434-1851
Print ISSN : 1345-9511
脆弱性の再検討
―フィールド研究の視座から―
日下部 尚徳
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2016 年 16 巻 p. 3-8

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抄録

2004年スマトラ沖地震、2008年ビルマ(ミャンマー)を襲ったサイクロン「ナルギス」、2010年ハイチ大地震、2011年東日本大震災、2015年ネパール大地震など、度重なる死者数万人規模の大規模自然災害を契機として、脆弱性に関する議論が熱を帯びている。これらの災害によって受けた被害は個人、コミュニティによって異なるが、今なお多くの人びとが以前の生活を取り戻せず、災害がなければ過ごせたであろう平穏な日々からは程遠い生活を余儀なくされている。本特集では、災害のみならず紛争、民族問題、ジェンダー、農村金融など、多様な分野におけるフィールド研究を通じて、脆弱性の概念を再検討することを目的としている。すべての研究が現地に直接出向き、自らの足でその地を歩き、そこで暮らす人びととの関わりの中から論を展開していることに加え、執筆者全員がそれぞれの脆弱性克服にむけた取り組みに何らかの形で関わっていることに特徴がある。研究者としての学術的関心にとどまらず、自身が問題解決を目指すことにより、現場の声をより近い距離で捉えることが可能となり、脆弱性を生み出す社会構造に対する内側(当事者的視点)からの理解が深まると考えられる。国際ボランティア学を考える上で、学門を志す研究者としての立場と、国際ボランティアの実践者としての立場が相反することなく同居することによる相乗効果の可能性を本特集は示しているといえる。

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2016 国際ボランティア学会
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