2018 年 18 巻 p. 99-112
本論は、国際開発の在り方の考察に日本の社会学者である鶴見和子の提唱した内発的発展論を取り上げ、当該理論の実践面における可能性について考察したものである。特に、この理論において、発展の中心を担うとされるキー・パースンについての分析を行った。 内発的発展論は、社会の近代化に伴い問題となった南北の経済格差問題、南の貧困問題、これらに関連する問題となった地球環境問題の深刻さを捉え1976年に提案された理論である。西欧の近代化それ自身は西欧にとって内発的発展であったように、世界の他の地域にも、独自の「内発的発展」があるとする。この中で、内発的発展を牽引するキー・パースンが指摘されており、本稿はキー・パースンの行動の源泉を知るためライフヒストリー及び心理学的調査を行った。この結果、キー・パースンは人生で大きなターニングポイントを経験し、これに伴い目的意識・価値観の醸成が見られ、自己犠牲的な努力をしていたことが分かった。さらに、ターニングポイントでは外部社会との出会いがあり、内発的発展論で重視している「外部との接触」が影響しているなど、その要件を満たしていた。また、子供の頃の承認欲求の満足度が高い可能性が認められた。