2022 年 14 巻 p. 30-39
ナルトサワギクは南アフリカおよびマダガスカル島が原産地の外来雑草で,アフリカのその他の地域,オーストラリア,ハワイ,日本,アルゼンチン,ブラジル,コロンビア,ウルグアイなどへ侵入している.年平均気温が10〜20℃,年降水量が500〜1500mmの地域に分布しており,日本では1976年に徳島県鳴門市で確認されて以降,西日本を中心に分布を拡大している.日本では主に,放牧地,路傍,高速道路の法面の法枠ブロック,城の石垣や開けた緑地,住宅地,市街地の植え込みなどで生育している.林縁など日射量が少ない場所には生育しておらず,オープンな場所を生育適地としている.短命の多年生草本で,多くの植物体は最初の1年で生活環を終える.主に種子によって繁殖するが,茎断片からの栄養繁殖も観察される.実生の発生および開花・結実が1年を通して観察され,散布された種子は直ちに発芽可能な状態となる.他の植物の生育が抑制されている冬季に開花・結実できるため,素早くナルトサワギクの優占群落が形成される.高温条件で種子休眠が誘導され埋土種子を形成するが,通常その寿命は3〜5年程度である.植物体には,人や家畜に肝毒性をもたらす有毒成分ピロリジジンアルカロイド(PAs)を含有している.侵入・伝播様式は非意図的導入とされ,日本への持ち込みは緑化用種子への混入によるものと考えられている.牧草地や在来草本が生育する自然草地および半自然草地において,競合による在来植生や牧草の衰退,在来近縁種に対する繁殖干渉,有毒性による家畜への健康被害などの雑草害をもたらしている.除草剤を中心に防除方法が検討されているが,牧草や在来植生を衰退させずにナルトサワギクが防除できるかが重要となる.決定的な総合防除技術は確立されておらず,予防原則に基づいて侵入・分布拡大経路の遮断が必要である.