2018 年 43 巻 1 号 p. 12-23
義歯安定剤の使用により義歯の維持,安定や咀嚼機能が改善することはこれまで報告されているが,義歯安定剤が口腔微生物に及ぼす影響に関する報告は少ない.そこで本研究は,義歯安定剤使用時のPorphyromonas gingivalis の初期付着率,付着菌数の経時的変化,付着状態(SEM 画像),上皮細胞破壊因子であるgingipain 活性を検索し,義歯安定剤が口腔微生物に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.加熱重合型義歯床用アクリルレジンブロックを作製し,各種義歯安定剤(クリームタイプ,パウダータイプ,クッションタイプ)を塗布したものを実験群,未処理のものをコントロールとした.菌懸濁液(1.0 × 109 CFU/ml)を各試料に滴下し,4 ℃で2時間培養後,義歯安定剤に付着した菌数を菌種特異的定量PCR 法にて定量し,初期付着率を算出した.また,付着菌数の経時的変化を測定するために,菌を初期付着させた各試料をABCM 液体培地に浸漬し37 ℃で1,2,3,6,12,24 時間培養し各培養時間における菌数を定量し,付着状態をSEM 画像にて確認した.各培養時間におけるgingipain 活性は蛍光測定により求めた. クリームタイプ,パウダータイプの初期付着率は,それぞれ59.7 % および70.0 % でクッションタイ プ(4.38 %),コントロール(5.75 %)より高値を示した.また実験群,コントロールともに,培養12 時間までは経時的に菌数は増殖したが,培養12 時間以降では増殖率の減少を認めた.SEM 画像により試料表層を確認したところ,クリームタイプとパウダータイプにおいて菌体周囲にバイオフィルム形成を認めた.Arg-gingipain 活性は実験群において培養1時間から有意差を認め,培養6時間以降で顕著に高値を示した.これらの結果から,義歯安定剤の使用はP. gingivalis の病原性を高める可能性が示唆された.