2020 年 45 巻 1 号 p. 13-22
歯の先天欠如は単純なメンデル遺伝を示すことが多いが,複数ある既報遺伝子座の大規模調査においても変異が同定される罹患家系は半数程度に過ぎず,未同定の原因遺伝子が多数あることが示唆される.我々は新規原因遺伝子変異同定を目的として,次世代シークエンサーを用いた罹患家系成員のエクソーム解析を行った.岩手医科大学附属病院歯科医療センター矯正歯科に来院した患者のうち,先天欠如が見られる2家系について,それぞれの家族の非発症者を含め計8名から提供された血液からDNA を抽出し解析に供した.いずれの家系においても,既報遺伝子座に候補となるような変異は同定されなかった.このうち,原因変異の優性遺伝が原因と考えられる家系では,40 遺伝子座においてアミノ酸配列に変化を与えるような45 の変異が新規候補として抽出された.またde novo 優性変異,あるいは劣性変異が原因と考えられるもう一つの家系では,ATAD3A,FBRSL1 (de novo 優性変異を仮定した場合),ZDHHC11B (劣性変異を仮定した場合)の3遺伝子座の変異が新規候補として抽出された.今回同定された候補から原因変異を特定するためには,アッセイ系の開発や歯発生分子機構の更なる理解,並びに先天欠如家系での候補遺伝子座における変異データの収集が必要である.