2022 年 43 巻 2 号 p. 49-54
症例は80代女性。自宅浴室内で灯油の浸された新聞紙上に仰臥位でいるところを発見され前医に救急搬送された。搬送時, 意識障害, 全身皮膚からの著明な刺激臭, 背部を中心とした化学損傷を認めた。胸部CT上, 化学性肺炎を指摘され, 精査加療目的に当院へ転院搬送された。化学性肺炎については, 左肺が一時多房性膿瘍となり完全にその機能が失われたと思われたが, シベレスタット, メチルプレドニゾロン, 抗菌薬使用により, 若干の瘢痕を残して改善した。化学損傷は軟膏と被覆材により全て上皮化した。前医搬送時からの意識障害は, 経過中に徐々に改善し, 灯油中毒による中枢神経障害と考えられた。灯油による化学性肺炎, 化学損傷や中枢神経障害に関する報告は比較的稀であり, 特に灯油による化学性肺炎は少量でも致死的になりうるが, 本症例はいずれの障害も保存的に加療でき良好な転帰を得たため報告する。