生命倫理
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臨床倫理学教育と国語科文学教育
服部 健司
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2012 年 22 巻 1 号 p. 86-93

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抄録
小・中学校の国語の授業時間に小説や詩の読み方はどのように教えられるべきかをめぐっての半世紀以上の長きにわたる教育論史を参照項として、いまだ歴史の浅い臨床倫理学教育の原理および方法論上の論点を浮き彫りにすることが本稿の目的である。臨床倫理学の生命線であるケーススタディの最初期段階において必須な契機である個別ケースの理解そのものにおいて文学的想像力の働きが大きな役割を果たすこと、臨床倫理学も文学もともに、ケースあるいは文学的テクストの読みの妥当性の判断根拠を明らかにするという根本的な課題をかかえていることを省みれば、ほとんど無関係に映じる臨床倫理学と文学とを類比的に結び合わせる必然性と妥当性も理解されるにちがいない。戦後の文学教育においてはいくつかの対立軸を中心に論戦が展開されてきた。それは、解釈学的作者中心主義あるいは正解到達主義に対する読者論、分析コードを用いた客観的技術的な読みに対する主体的な読み、という図式で概括することができる。この図式はほぼそのまま臨床倫理学およびその教育に重ねることが可能である。本稿は、昨今趨勢となっている正解到達主義および分析コード主義に抗して、機微を重んじた主体的な読みをぶつけ合うことを志向する、問題発見的、反省的なあり方こそが臨床倫理学およびその教育にとって枢要であることを論じる。
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2012 日本生命倫理学会
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