抄録
本論文の目的は、事前指示において表示された意思の撤回が認められる場合と認められない場合を整理することである。この目的を達成するために、本論文は意思の真正さという概念に注目する。このとき真正さは、意思が「自分にとって真であること」と定義されるが、曖昧さを防ぐために、本論文はこの「自分にとって真であること」を「十分な批判的反省を経ていること」と言い換える。この十分な批判的反省は、事前指示の場面では、事前ケアプランにおけるコミュニケーションの中で遂行されるべきものである。すると、事前指示のための意思形成と同程度のコミュニケーションを経て形成されるかぎりにおいて、事前指示の撤回の意思は認められるべきであると考えられる。これに対し、そのようなコミュニケーションを経る時間の余裕がない場合には、事前指示の撤回を認めることには慎重であるべきであると考えられる。