日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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変わりゆく日本の歯科医療
海外歯科医師に対する新・顎咬合学推進講座
河原 英雄増田 純一上濱 正Henry H TakeiPerry R Klokkevold林 崇民Anthony Rowley河津 寬渡辺 隆史石坂 芳男油井 香代子秋元 秀俊山形 徳光夏見 良宏
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2015 年 35 巻 3 号 p. 249-258

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抄録

ディスカッションに先立って河原先生は,多くの患者に生き甲斐のある暮らしを提供することを目的に,「嚙むことの大切さ」を掲げ,治療時には特に義歯の新製を行わず義歯を調節する,それも和食を箸にて食べる文化を尊重し, Balanced occulusion で前歯で咬める咬合を付与すると説明した.調整前後のビデオでは義歯が調整されるだけで,患 者の人としての行動に改善が見られ,目が開き,話し,笑い,歩き,歌を唄った.エビデンスは確立していないが咬合の回復によって運動能力の活性化や認知症の改善をもたらす.「転ばぬ先の杖」元気なうちに義歯を作りそれをうまく使いこなすことが大切であると説明.まさに歯科医療は暮らしを支える医療となったと提言された.増田先生から長寿社会を生き抜くためには,まず「健口」な子どもの口腔を作る必要があることが説明された.具体的には,3 歳までに咬合の基本と土台を習得し,う蝕はゼロ,4 ~5 歳までこれを維持,第一大臼歯の萌出が始まったら,3 ~4 年間う蝕に罹患させない.そして,下顎位を完成させる.その後1 年くらいで側方歯が萌出して永久歯に生え変わり,12 歳でう蝕なしを達成する.このようにして,健全な永久歯と咬み合わせを持った「健口」な状態で人生の旅立ちができるようになると提唱. それらの説明を受けて上濱理事長は「口の健康が元気に生きる源である.嚙んで食べて消化吸収して,元気な体を作ることは生涯の宝である」とし,前述の二方の先生の話を生理学的根拠からまとめた.的確な咀嚼で刺激が脳に伝えられ,脳血流も増加する.また,唾液とよく混和された食物は適切に消化管で分解・吸収され,全身の源となる.子どもに対しては,母乳で育て,正しい方法・バランスで離乳食を食べさせ,しっかり嚙ませてう蝕にしないこと.幼児期に自然の味覚を覚えることも生涯において宝である.成人期は口腔内の疾患を早期に治療し,よく嚙ませる.高齢期は残存歯を維持する,口腔を清潔にする,入れ歯でよく嚙める環境を維持する.これによって健康な頭と体を取り戻す.たとえ脳血管障害,認知症などの患者でも,徐々に嚙み応えのある食事を応用した「食事による総義歯リハビリテーション」を行おうと提言した. これらの学会活動は学会内・外問わず注目され,メディアからの取材をはじめ外人記者クラブによる記者会見は記憶に新しい.今回のディスカッションではこれらの講演を元に変わりゆく日本の歯科医療について語っていただいた.

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© 2015 特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
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