2007 年 27 巻 1-2 号 p. 60-69
昨今の医療機器の進歩にともない日常臨床においても, 咀嚼時を含む下顎の機能運動を身近に診ることができる時代となった.かつて, 筆者もナソロジーの咬合論を学び, 従来の咬合器の分析を主体にした臨床を行ってきたが, すべての症例が理論どおりにいくとは限らなかった.これにはさまざまな原因が考えられるが, 一番大きな要因としては, 従来の咬合論が生体を咬合器に移し変えて限界運動路を分析することを中心に展開されてきたことにあると考えている.実際の咀嚼において, 生体は限界運動で咀嚼はしないし, 限界運動と咀嚼運動は別ルートである.そして当然のことながら, 咀嚼運動は咬合面形態に大きく影響を受ける.
今回は, 実際の咀嚼運動時における下顎の動きがイメージになかった頃, 筆者が行った咬合分析を, 咬合器主体に行った症例に対する反省をもとにその問題点を考察し, 現在行っている包括歯科臨床における咬合治療の実際を提示し, 諸兄に教えを請うものである.