2025 Volume 29 Issue 1 Pages 187-198
オープンサイエンスへの関心の高まりを受け,研究成果の即時オープンアクセス(OA)化に向けた取り組みが求められている.これに応えるため,香川大学は,論文の投稿から公開に至るフローをワンストップに支援する論文投稿・公開支援システムを開発した.実際の運用を想定したデータセットを用いた動作検証によるシステムの評価の結果,期待される動作が達成され,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援できることが確認された.業務処理時間の削減の評価の結果,本システムを利用することで,従来の公開依頼フォームに比べ,論文の公開依頼の入力に費やされる時間が削減されることが明らかとなった.技術受容モデルによるシステムの受容性評価により,本システムは,利用者の心理的抵抗感を軽減し,その結果としてシステムの受容性を高め,利用促進につながる可能性が示された.
研究成果を広く公開・共有するための活動であるオープンサイエンスへの関心の高まりを受け,特に論文とその根拠となる研究データを,出版と同時に無償でアクセス可能な形で提供する即時オープンアクセス化(即時OA化)に向けた取り組みが加速している[1].2023年6月に閣議決定された統合イノベーション戦略2023において,公的資金によって生み出された研究成果は国民に広く還元されるべきものである,という基本方針のもと,即時OA化の推進が明示された[2].2024年2月の統合イノベーション戦略推進会議では,「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」が示され,公的資金による論文とその根拠となる研究データの学術雑誌への掲載後,即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づけることが決定された[3].2024年3月には,文部科学省により,即時OA化に向けた研究成果の管理・利活用システム(機関リポジトリ等)の開発・高度化の実施を支援する「オープンアクセス加速化事業」の公募が開始された[4].
香川大学では,機関リポジトリである「香川大学学術情報リポジトリ(OLIVEIII)」を運用している[5].OLIVEIIIは2008年にサービスを開始し,2021年にJAIRO Cloudに移行した.JAIRO Cloudとは,国立情報学研究所(NII)とオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)による,機関リポジトリ環境提供サービスである[6].JAIRO Cloudでは,基盤ソフトウェアとして,NIIが開発するWEKO3が採用されている[7].香川大学の研究者が,OLIVEIIIを利用して論文を公開依頼するまでの現在の作業を以下に示す.研究者は,投稿から出版まで自身のローカル環境で論文を管理しており,出版が完了した論文について,Microsoft Formsを利用した公開依頼フォームに,自身で管理している論文ファイルのアップロードと,論文タイトルや著者等の論文メタデータを入力することで公開を依頼していた.
即時OA化では,学術雑誌への掲載後3カ月程度で公開されることが望ましい,とされている[8].2024年度に学術雑誌に掲載後OLIVEIIIで公開された論文47件のうち,3カ月以内に公開された論文は3件であり,OLIVEIIIで公開されたほとんどの論文について,即時OA化で望ましいとされる期間中に公開できていないという問題があった.これは,エンバーゴ期間の存在やAPC(Article Processing Charge)の支払いといった要因に加え,香川大学において,投稿から出版までの論文管理プロセスと,出版後の公開依頼プロセスが同一システム内で統合されていないことに起因すると考えられる.研究成果の学術流通は,論文の投稿,査読,出版を経て公開で完結する一連のフローである[9]が,このようなシステムの分断は,研究者にとって投稿から公開に至るフロー全体の明確な把握を困難にし,次に何をすべきかという見通しを立てられなくさせ,研究者の心理的抵抗感を誘発する原因となる.投稿から公開に至るフローの全体像が不明瞭であることや,次に取るべき行動が不明確であることは,研究者の不安感を高め,結果として論文の公開依頼への心理的抵抗感を形成していたと考えられる.投稿から出版までの論文管理プロセスと,出版が完了した論文の公開依頼プロセスを,同一のシステム内で統合した支援システムを構築できれば,投稿,査読,出版の延長上の操作として公開依頼できるようになり,公開依頼に対する研究者の心理的抵抗感を軽減できる可能性がある.
香川大学は,「オープンアクセス加速化事業」の採択を受けて,投稿から出版までの論文管理プロセスと,出版が完了した論文の公開依頼プロセスを,同一のシステム内で統合した支援システムの構築を目指し,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援する論文投稿・公開支援システムを開発した.論文投稿・公開支援システムでは,投稿時に論文PDFと論文メタデータをシステムに入力し,査読時に査読コメント・質疑応答,採録/不採録を入力して査読状況を管理できることに加え,同システムで公開依頼が可能である.これにより,公開に至る見通しや整理の助けになることに加え,投稿,査読,出版の延長上の操作としての公開依頼が可能となる.
本論文では,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援する有効性について,「手続きの全体像を明確にし,次に取るべき行動への見通しを立てることで,利用者の不安を軽減し,心理的抵抗感を軽減する」という新たなメカニズムを提案する.論文投稿・公開支援システムは,このメカニズムの提案を具現化しており,論文の公開依頼において利用者である研究者の心理的抵抗感の軽減を目指すものである.これは,情報システムのユーザインタフェースやワークフロー設計が,利用者の心理状態に与える影響を体系的に考察する新たな理論的貢献である.
本論文では,機関リポジトリを運用する学術機関に共通する,即時OA化に向けた研究成果の管理と公開に関する体制の強化(システム改革)をどのように加速するか,という点に対し,投稿から出版までの論文管理プロセスと,出版が完了した論文の公開依頼プロセスを,同一のシステム内で統合した支援システムの構築という解決案を示し,それを実現するための論文投稿・公開支援システムについて述べる.2章では,先行/関連研究について述べる.3章では,論文投稿・公開支援システムの開発について述べる.4章では,動作検証の方法を述べ,検証をおこなう.5章では,業務処理時間の削減の評価をおこなう.6章では,システムの受容性評価をおこなう.7章では,本論文をまとめる.
即時OA化に向けた論文公開のシステムに関する先行研究や関連研究について以下に述べる.
名古屋大学では,研究成果の公開基盤として,「名古屋大学学術機関リポジトリ(NAGOYA Repository)」を運営しており,機関リポジトリ運営の見直しや論文の公開の依頼をより効率的に実施できる公開支援システムの開発等,政策的な要求に対応するための課題について述べた[10].
お茶の水女子大学では,機関リポジトリ「お茶の水女子大学教育・研究成果コレクション(TeaPot)」において,体系的にコンテンツを収集するために,従来のメール添付による論文公開の依頼方法を見直し,2023年度からMicrosoft Formsを利用した依頼方法に変更した[11].
引原は,論文公開に関して,研究者が望むのは,研究現場から生み出される論文を尊重して,命じられて公開するのではなく,より良い形への手引をしてもらえることであると指摘した[12].
香川大学は,名古屋大学と同じく,論文の公開の依頼をより効率的に実施できる公開支援システムについて検討し,即時OA化に向けて,論文投稿・公開支援システムを開発した.現在,香川大学における論文公開の依頼方法は,お茶の水女子大学と同じくMicrosoft Formsを利用しておこなわれている.香川大学が開発した論文投稿・公開支援システムでは,Microsoft Formsを利用した公開依頼フォームによる公開依頼を見直し,同システムで公開依頼を可能にした.本論文の論文投稿・公開支援システムは,引原の指摘にあるように,論文公開に関して,命じられて公開するのではなく,より良い形への手引きを目指した,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援する点で,従来のシステムとは異なる.
Open Journal Systems[13]やScholastica(Open Access Publishing Platform)[14]は,投稿から査読,編集,出版までの一連の学術雑誌運営プロセスを包括的に管理するための編集・査読・出版システムであり,雑誌編集者の立場から学術雑誌運営の効率化を目的としている.本論文の論文投稿・公開支援システムは,出版後の即時OA化のために,出版された論文を即時に機関リポジトリで公開することを支援するものであり,研究者の立場から論文の公開依頼における研究者の心理的抵抗感を軽減するという独自の視点で開発された.論文投稿・公開支援システムは,Open Journal SystemsやScholastica(Open Access Publishing Platform)とは開発の狙いや対象となる業務が異なり,その設計思想と技術的アプローチにおいて,独自の課題解決と先進性を有している.
本章では,投稿から公開に至るフローを支援する論文投稿・公開支援システムの開発について述べる.
3.1 論文投稿・公開支援システムの要件定義投稿から公開に至るフローをワンストップに支援する論文投稿・公開支援システムの実現に向け,システムが満たすべき要件として4項目を設定した.以下に,4項目の要件を述べ,それらを概説する.
要件(1):投稿時に論文PDFと論文メタデータを登録できること.
要件(2):査読時の査読コメント・質疑応答を登録できること.
要件(3):査読結果の学術雑誌への採録/不採録を登録できること.
要件(4):登録した論文の公開依頼ができること.
要件(1)について,投稿から出版までは研究者が自身のローカル環境で管理していた論文について,投稿時からシステムで管理し,そのデータを利用して公開依頼できるようにするため,論文PDFと論文メタデータを登録できる必要がある.要件(2),要件(3)について,登録した論文の査読状況をシステムで管理できるようにするため,査読コメント・質疑応答と採録/不採録を登録できる必要がある.要件(4)について,投稿,査読,出版の延長上の操作として公開をおこなえるようにするため,システム上で論文の公開依頼ができる必要がある.
これら要件を満たすモデルシステムとして,以下に述べる論文投稿・公開支援システムを提案する.図1は,論文投稿・公開支援システムの概要を示している.論文投稿・公開支援システムは,論文PDFを格納する論文PDFストレージ,論文メタデータを格納する論文メタデータデータベースを備えており,要件(1)を実現する「論文登録機能」,要件(2)と要件(3)を実現する「査読管理機能」,要件(4)を実現する「公開支援機能」を有する.図2は,「論文登録機能」のフロー図を示している.研究者は,学術雑誌に投稿した論文について,論文PDFと論文メタデータを論文投稿・公開支援システムに入力する.論文投稿・公開支援システムは,入力値のチェック後,論文PDFを論文PDFストレージに,論文メタデータを論文メタデータデータベースに格納する.


図3は,「査読管理機能」のフロー図を示している.研究者は,「論文登録機能」で登録した論文について,査読に応じて修正した修正論文PDF,査読コメント・質疑応答,採録/不採録を論文投稿・公開支援システムに入力する.論文投稿・公開支援システムは,入力値のチェック後,修正論文PDFを論文PDFストレージに,査読結果・質疑応答と採録/不採録を論文メタデータデータベースに格納する.

図4は,「公開支援機能」のフロー図を示している.研究者は,「論文登録機能」で登録した論文の中で公開を希望する論文について,すべて(論文PDFと論文メタデータ)公開するのか,論文メタデータのみ公開するのか,といった公開パターンを設定後,論文投稿・公開支援システムに公開を依頼する.論文投稿・公開支援システムは,公開が依頼されると,公開作業の担当者である図書館員に公開依頼のメールを送信する.図書館員は,公開依頼の論文メタデータを確認後,差し戻しの場合は,差し戻し理由を入力し,差し戻しを実行する.差し戻しが実行された場合,論文投稿・公開支援システムは,研究者に差し戻しのメールを送信する.公開依頼の論文メタデータに問題がない場合,図書館員は,論文投稿・公開支援システムで学術雑誌のOAポリシーを確認し,論文のOA可否を判断する.このとき,論文投稿・公開支援システムは,学外のポリシーデータベースを利用してOAポリシーを取得し表示する.OA不可の場合,図書館員は,OA不可理由を入力し,差し戻しを実行する.差し戻しが実行された場合,論文投稿・公開支援システムは,研究者に差し戻しのメールを送信する.OA可の場合,図書館員は公開を実行する.公開が実行されると,論文投稿・公開支援システムは,論文メタデータに基づきTSV(Tab Separated Values)形式のファイル(TSVファイル)を生成した後,TSVファイルと論文PDFをZIP形式で圧縮し,OLIVEIIIに登録するためのZIPファイル(登録用ZIPファイル)を生成する.そして,論文投稿・公開支援システムは,OLIVEIIIの基盤ソフトウェアであるWEKO3で提供される一括登録APIを利用して登録用ZIPファイルをOLIVEIIIにアップロードし,研究者に登録結果のメールを送信する.

次に,論文投稿・公開支援システムの実装について述べる.図5は,論文投稿・公開支援システムにおけるサーバ構成図を示している.サーバ構成図に記載の論文投稿・公開支援システムフロントエンドは,Microsoft社が提供するローコード・ノーコードプラットフォームであるPower Platform[15]を利用し開発した.論文投稿・公開支援システムフロントエンドから,論文メタデータデータベース,論文PDFストレージ,httpサーバで構成されるデータソース群へ接続するため,Power Platformで提供されるコネクタを利用した.このとき,香川大学のファイアウォールにより,学外から学内への接続は制限されるため,Microsoft社のオンプレミスデータゲートウェイ[16]を介してデータソース群に接続した.論文メタデータデータベースでは,リレーショナルデータベース管理システムにPostgreSQLを採用した.論文PDFストレージは,Microsoft Windowsのファイルサーバを利用して構築した.このとき,論文PDFストレージにおける論文PDFのファイル管理において,同じファイル名の論文PDFが格納された場合に上書きされることなく,論文PDFのバージョンが管理できるように,以下の通り実装した.論文投稿・公開支援システムは,論文PDFストレージへの論文PDFの格納時に,論文メタデータから論文IDを取得し,論文PDFストレージに論文IDの名前のフォルダがない場合は,論文IDの名前のフォルダを作成する.そして,論文IDフォルダ下のサブフォルダ数をカウントし,サブフォルダ数を1カウントアップした名前のサブフォルダを作成した後に,そのサブフォルダ下に論文PDFを格納する.これにより,論文PDFはそれぞれのサブフォルダに格納されるため,同じファイル名であっても上書きされることはない.さらに,サブフォルダ名によるバージョン管理が可能となる.httpサーバは,論文をOLIVEIIIに登録するために設置された.ただし,OLIVEIIIに論文を登録すると実際に公開されてしまうため,本論文における論文投稿・公開支援システムでは,ローカル環境にOLIVEIIIの代替サーバを用意した.OLIVEIIIはJAIRO Cloudを採用しており,JAIRO Cloudの基盤ソフトウェアはWEKO3であるため,代替サーバとして,WEKO3のサーバを構築した.httpサーバにおいて,論文投稿・公開支援システムフロントエンドからの公開のリクエストを受信するための論文公開APIエンドポイント機能と,WEKO3の一括登録APIに対するリクエストの送信機能を実装した.httpサーバは,論文公開APIエンドポイントへのリクエストを受信すると,登録用ZIPファイルを付加して,WEKO3の一括登録APIへリクエストを送信する.

論文のWEKO3への登録において,論文メタデータに基づいてTSVファイルを生成し,TSVファイルと論文PDFを圧縮して登録用ZIPファイルを生成する機能を実装予定であるが,現在のところ以下の理由により,これらは未実装である.登録用ZIPファイルの生成では,WEKO3の一括登録APIのフォーマットに従い,アイテムタイプごとにTSVファイルを作成し,論文PDFファイルと合わせてZIPファイルを生成する必要がある.このアイテムタイプとは,学術雑誌論文や紀要論文等の種別毎に用意された論文メタデータ項目のセットのことである.アイテムタイプ毎にどのようなTSVファイルを生成しなくてはならないのか,についての検討が必要であるが,それは,本論文での論文投稿・公開支援システムの開発に要する工数の視点から困難であったことが,未実装の理由である.
表1は,論文メタデータのフィールドを示している.論文メタデータのフィールドは,将来的なresearchmapや教員個人評価に使用される項目との連携を考慮して定義された.「論文ID」フィールドは,登録した論文に一意に付与される値である.「状態」フィールドは,論文の査読やOAの状況を格納するフィールドであり,「査読中」,「採録」,「不採録」,「OA可能」,「公開」の値をとる.
| フィールド | 必須項目 | 主キー |
|---|---|---|
| 論文ID | 〇 | 〇 |
| 大学ID | 〇 | |
| 所属 | ||
| 状態 | 〇 | |
| 論文タイトル | 〇 | |
| 著者名 | 〇 | |
| 出版雑誌名 | 〇 | |
| 巻 | ||
| 号 | ||
| ページ(from) | ||
| ページ(to) | ||
| 発行年月日 | ||
| DOI | ||
| ISSN | ||
| ファイルパス | ||
| 著者区分 | 〇 | |
| 担当区分 | ||
| 概要 | ||
| 出版者・発行元 | ||
| 掲載種別 | ||
| 記述言語区分 | 〇 | |
| 査読有無 | ||
| 査読の質疑応答,コメント | ||
| Impact Factor | ||
| Impact Factor(備考) | ||
| 執筆区分 | 〇 | |
| 国際・国内誌 | ||
| 国際共著 | ||
| URL |
論文投稿・公開支援システムフロントエンドは,研究者向けの「論文投稿者用画面」,公開作業を担当する図書館員向けの「論文公開者用画面」を有する.図6は,「論文投稿者用画面」を示している.「論文投稿者用画面」の左側は,論文の一覧表示欄であり,論文メタデータの「状態」フィールドが「査読中」,「採録」,「不採録」である論文が一覧表示される.画面右側には,論文PDFと論文メタデータの入力欄が表示される.入力欄の「状態」欄には,「査読中」,「採録」,「不採録」の選択肢が表示され,採録/不採録に対応する値が研究者により選択される.「査読コメント」タブが押されると,図7に示す査読コメント入力画面が表示され,研究者により査読コメント・質疑応答が入力される.「公開依頼」ボタンが押されると,図8に示す公開パターン選択画面が表示され,公開する論文の種類(査読済最終原稿/出版者版/それ以外・不明)やOA範囲(すべて/論文メタデータのみ/非公開)が研究者により選択される.公開パターンが選択された後,論文投稿・公開支援システムは,論文メタデータの「状態」フィールドを「OA可能」に設定し,公開作業の担当者である図書館員に公開依頼のメールを送信する.



図9は,「論文公開者用画面」を示している.「論文公開者用画面」の左側は,公開依頼された論文の一覧表示欄であり,論文メタデータの「状態」フィールドが「OA可能」である論文が一覧表示される.画面右側には,一覧から選択された論文に関する論文メタデータが表示される.「OAポリシー確認」ボタンが押されると,論文投稿・公開支援システムは,論文メタデータの「ISSN」フィールドの値をキーとして,ポリシーデータベースからISSNに対応する学術雑誌のOAポリシーを取得し,図10に示すOAポリシー画面に表示する.このとき,ポリシーデータベースとして,OAに関する学術雑誌のポリシーをまとめたデータベースである学協会著作権ポリシーデータベース[17]およびOpen policy finder[18]を利用する.差し戻し,またはOA不可の場合,図書館員により「差し戻し」ボタンが押される.「差し戻し」ボタンが押されると,図11に示す差し戻し理由入力画面が表示される.図書館員により差し戻し理由,またはOA不可理由が入力された後,論文投稿・公開支援システムは,論文メタデータの「状態」フィールドを「採録」に設定し,研究者に差し戻しのメールを送信する.「公開」ボタンが押されると,論文投稿・公開支援システムは,論文メタデータの「状態」フィールドを「公開」に設定し,研究者に公開のメールを送信する.「公開」ボタンが押された場合,上記に加え,登録用ZIPファイルのOLIVEIIIへのアップロードを予定しているが,現在のところTSVファイルの生成と登録用ZIPファイルの生成が未実装であるため,登録用ZIPファイルはOLIVEIIIへアップロードされない.



本章では,本論文で提案したシステムが,3.1節で示した要件を充足し,期待される動作を達成するかを確認するため,論文投稿・公開支援システムについて動作検証を実施した.
以下に,動作検証の方法を述べる.実際の論文投稿・公開においては,さまざまなサイズの論文PDF,論文メタデータの入力,査読の有無,が想定される.そこで,実際の運用を想定し,動作検証用に,論文PDFのサイズ,論文メタデータの入力,査読の有無,を因子として,それぞれの水準を表2に示すように設定した.さらに,2水準3因子の直交表を用いた実験計画法[19]により,表3に示す組み合わせを動作検証のデータセットパターンとして設定した.動作検証は以下の手順で実施した.
| 因子 | 水準 | |
|---|---|---|
| 1 | 2 | |
| 論文PDFサイズ | 小 | 大 |
| 論文メタデータの入力 | 必須項目のみ | 全項目 |
| 査読の有無 | 無 | 有 |
| No. | 論文PDFサイズ | 論文メタデータの入力 | 査読の有無 |
|---|---|---|---|
| データセット1 | 小(237 KB) | 必須項目のみ | 無 |
| データセット2 | 小(237 KB) | 全項目 | 有 |
| データセット3 | 大(10,665 KB) | 必須項目のみ | 有 |
| データセット4 | 大(10,665 KB) | 全項目 | 無 |
1.データセット毎に,「論文投稿者用画面」で,論文PDFと論文メタデータを登録した.
2.査読有りの場合,「論文投稿者用画面」で,査読コメント・質疑応答と修正した論文PDFを登録した.
3.採録/不採録を登録した.
4.「論文投稿者用画面」で,公開依頼を実行した.
5.公開依頼のメールの受信を確認した.
6.「論文公開者用画面」で,公開依頼された論文について論文PDFと論文メタデータを確認した.
7.「論文公開者用画面」で,公開依頼された論文の差し戻しを実行した.
8.差し戻しのメールの受信を確認した.
9.差し戻された論文について,「論文投稿者用画面」で,再度,公開依頼を実行した.
10.「論文公開者用画面」で,OAポリシーを確認した.
11.「論文公開者用画面」で公開を実行した.
12.公開のメールの受信を確認した.
本論文で提案した論文投稿・公開支援システムは,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援することが可能であるかを検証するため,動作検証において,3.1節で示した要件(1)~要件(4)に対応する検証項目として,それぞれ検証項目(1)~検証項目(4)を設定し,その動作結果を確認した.以下に,検証項目とその詳細を述べる.
検証項目(1):論文PDF,論文メタデータの登録は問題なく動作したか.
入力した論文PDFが論文PDFストレージに格納され,論文メタデータが論文メタデータデータベースに格納され,入力した内容と論文PDFストレージや論文メタデータデータベースに格納された内容が一致した場合に,問題なく動作したと判定した.
検証項目(2):査読コメント・質疑応答の登録は問題なく動作したか.
入力した査読コメント・質疑応答が論文メタデータデータベースに格納され,入力した内容と論文メタデータデータベースに格納された内容が一致した場合に,問題なく動作したと判定した.
検証項目(3):採録/不採録の登録は問題なく動作したか.
入力した採録/不採録が,論文メタデータの「状態」フィールドに反映された場合に,問題なく動作したと判定した.
検証項目(4-1):公開依頼は問題なく動作したか.
公開依頼の実行時,論文メタデータの「状態」フィールドが「OA可能」になり,公開依頼のメールが受信できた場合に,問題なしと判定した.
検証項目(4-2):公開依頼された論文を,「論文公開者用画面」で確認できたか.
公開依頼された論文が「論文公開者用画面」で一覧表示され,その論文PDF,論文メタデータが「論文公開者用画面」で表示できた場合に,問題なしと判定した.
検証項目(4-3):差し戻しは問題なく動作したか.
差し戻された論文は,論文メタデータの「状態」フィールドが「採録」になり,差し戻しのメールが受信できた場合に,問題なしと判定した.
検証項目(4-4):OAポリシーの表示は問題なく動作したか.
ISSNに対応したOAポリシーが表示された場合に,問題なしと判定した.
検証項目(4-5):公開は問題なく動作したか.
公開された論文は,論文メタデータの「状態」フィールドが「公開」になり,公開のメールが受信できた場合に,問題なしと判定した.
表4は,動作検証結果を示している.動作検証の結果,準備したデータセットに対して,すべての検証項目で問題なく動作した.このことから,本論文で提案したシステムは,3.1節で示した要件を満たしており,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援することが可能であると確認できた.
| 検証項目 | 検証内容 | データセット1 | データセット2 | データセット3 | データセット4 |
|---|---|---|---|---|---|
| (1) | 論文PDF,論文メタデータの登録は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (2) | 査読コメント・質疑応答の登録は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (3) | 採録/不採録の登録は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (4-1) | 公開依頼は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (4-2) | 公開依頼された論文を,「論文公開者用画面」で確認できたか | OK | OK | OK | OK |
| (4-3) | 差し戻しは問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (4-4) | OAポリシーの表示は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
| (4-5) | 公開は問題なく動作したか | OK | OK | OK | OK |
以下に考察を述べる.日本学術会議は,見解「工学システムに対する『安心感』の醸成」を提示し,その中で,工学により実現されるシステムが,利用者の「安心感」が担保されて初めて社会に受け入れられるという現状を指摘し,「安心」と「安全」をつなぐ「信頼」の向上が,利用者に安心感を与え,結果としてシステムが社会に広く受容される道筋であることを述べた[20].そして,「デジタル信頼のための技術的要件」として,「期待される機能が確実に果たされる」ことと定義し,システムの機能が安定して正確に動作することが,利用者の信頼を構築し,安心感の醸成に不可欠であるという考えを示した.システムの信頼性が高まることで,利用者は不確実性や失敗への懸念から解放され,心理的抵抗感が軽減し,積極的にそのシステムを利用するようになると考えられる.これは,安心感の醸成による心理的抵抗感の軽減といえる.香川大学が開発した論文投稿・公開支援システムは,4章で述べた動作検証を通じて,その機能が安定して正確に動作することが確認された.この結果より,論文投稿・公開支援システムは,日本学術会議の見解において示された「デジタル信頼のための技術的要件」のひとつである「期待される機能が確実に果たされる」という条件を満たしていることが示された.したがって,論文投稿・公開支援システムは,利用者の安心感の醸成に寄与し,結果としてシステム利用に対する心理的抵抗感の軽減につながる可能性が高い.
新井は,教育機関のウェブサービスが抱える課題として,既存の縦割りの体制下での複雑なシステムを指摘し,このような体制下では,利用者が求める情報が複数のシステムに分散しており,結果として利用者の利用を低下させる要因となっていると述べた[21].そして,この課題に対する解決策として,利用者が単一のウェブサイトにアクセスするだけで,個々のユーザーに最適化された情報やサービスを統合的に提供できる仕組みであるワンストップサービスの有効性を提示し,教育機関のウェブページにワンストップサービスを導入した結果,高いアクセス数が達成され,システムが活発に利用されている事例を紹介した.ワンストップサービスの導入により,複数のシステムや分散した情報源が一元化され,手続きの全体像が明確に把握できるようになり次に何をすべきかという明確な見通しが立つことで,利用者が抱く不確実性由来の不安が軽減される.その結果,利用者の心理的抵抗感が軽減され,システム利用の促進に寄与すると考えられる.この事例は,システムの複雑さの低減による心理的抵抗感の軽減といえる.香川大学が開発した投稿・公開支援システムは,投稿から出版までの論文管理プロセスと,出版後の公開依頼プロセスという,従来分断されていたプロセスを同一システム内で統合し,投稿から公開に至る一連のフローをワンストップに支援する.これにより,手続きの全体像が明確に把握できるようになり,投稿から出版の論文管理の延長上の操作としての公開依頼が可能となる.これは,新井が述べたワンストップサービスの有効性に合致している.したがって,論文投稿・公開支援システムは,システムの複雑さを低減し,システム利用に対する利用者の心理的抵抗感の軽減につながる可能性がある.
本章では,論文投稿・公開支援システムへの入力に費やされる時間と,従来の公開依頼フォームへの入力に費やされる時間とを比較することで,論文投稿・公開支援システムによる業務処理時間の削減を評価した.
5.1 方法論文1件を公開依頼する場合の,論文投稿・公開支援システムへの入力に費やされる時間と,従来の公開依頼フォームへの入力に費やされる時間について,著者が所属する大学の4名の研究者へ聞き取り調査を実施した.論文投稿・公開支援システムでは,論文投稿時,査読時,公開依頼時の工程で入力が発生するため,各工程における入力に費やされる時間について4名の研究者の平均値を算出した.従来の公開依頼フォームは,論文投稿時,査読時には入力せず,公開依頼時に入力するものであるため,公開依頼時の入力に費やされる時間について4名の研究者の平均値を算出した.
5.2 結果表5は,聞き取り調査により算出した論文投稿・公開支援システムへの入力に費やされる時間と,従来の公開依頼フォームへの入力に費やされる時間について,4名の研究者への聞き取り調査の結果を示している.各工程における入力に費やされる時間は,4名の研究者の平均値を示している.論文投稿・公開支援システムでは,論文投稿時,査読時,公開依頼時の各工程で入力に費やされる時間は,それぞれ5分,3.5分,3.75分,合計は12.25分であった.従来の公開依頼フォームでは,公開依頼時の工程で入力に費やされる時間は,8.75分であった.従来の公開依頼フォームでは,論文投稿時,査読時には入力しないため,これら工程で費やされる時間は発生しない.
| 入力に費やされる時間(分) | ||||
|---|---|---|---|---|
| 投稿時 | 査読時 | 公開依頼時 | 合計 | |
| 論文投稿・公開支援システム | 5 | 3.5 | 3.75 | 12.25 |
| 従来の公開依頼フォーム | ― | ― | 8.75 | 8.75 |
表6は,論文投稿・公開支援システムへの入力に費やされる時間と,従来の公開依頼フォームへの入力に費やされる時間との比較を示している.公開依頼時の工程について,論文投稿・公開支援システムでは,従来の公開依頼フォームに比べ,入力に費やされる時間は8.75分から3.75分に減少し,その削減時間は5分,削減率は57.1%であった.投稿時,査読時,公開依頼時を合わせた入力に費やされる時間の合計について,論文投稿・公開支援システムでは,従来の公開依頼フォームに比べ,8.75分から12.25分に増加し,その削減時間は-3.5分,削減率は-40.0%であった.削減率の算出は,削減時間を従来の公開依頼フォームへの入力に費やされる時間で除算した.
| 入力に費やされる時間(分) | 削減時間(分) | 削減率(%) | ||
|---|---|---|---|---|
| 論文投稿・公開支援システム | 従来の公開依頼フォーム | |||
| 公開依頼時 | 3.75 | 8.75 | 5 | 57.1% |
| 合計 | 12.25 | 8.75 | -3.5 | -40.0% |
論文投稿・公開支援システムを利用することで,公開依頼時の工程において57.1%の業務処理時間の削減が可能であることが示された.論文投稿・公開支援システムでは,論文投稿時,査読時に,その都度,論文メタデータや論文PDFを入力するワークフローとなっているため,公開依頼時には論文メタデータや論文PDFの入力が不要となる.これにより,公開依頼時の工程において業務処理時間の削減が可能となる.一方,投稿時,査読時,公開依頼時を合わせた入力に費やされる時間の合計について,論文投稿・公開支援システムでは,従来の公開依頼フォームに比べ3.5分増加する結果となった.これは,従来の公開依頼フォームでは入力しない査読時の査読コメントについて,論文投稿・公開支援システムでは入力可能となっているため,その入力時間分が増加したと考えられる.実際,論文投稿・公開支援システムでの査読時の入力に費やされる時間は3.5分であり,増加分と一致する.
Davisらは,情報システムの利用を予測・説明するモデルである技術受容モデル(TAM: technology acceptance model)を提唱した[22].TAMでは,個人が情報システムの利用に至る基本的な要因として,「知覚された有用性」と「知覚された使いやすさ」が定義され,「知覚された使いやすさ」は「知覚された有用性」へ正の影響を与え,「知覚された有用性」と「知覚された使いやすさ」は情報システムを用いることで望ましい結果を生み出せると考える「利用への態度」へ正の影響を与え,「利用への態度」と「知覚された有用性」は情報システムの利用につながる「利用への行動意図」に正の影響を与える,というモデルが構築されている.業務処理時間の削減は,業務の効率化と生産性向上に寄与する.TAMでは,業務の効率化と生産性向上は「知覚された有用性」に直接関連していることから,業務処理時間の削減は,「知覚された有用性」を向上させ,その結果,利用者のシステム利用への行動意図が向上するといえる.論文投稿・公開支援システムでは,従来の公開依頼フォームに比べ,公開依頼時の工程において業務処理時間の削減が可能であることから,公開依頼における論文投稿・公開支援システムの利用向上が期待できる.
本章では,論文投稿・公開支援システムの有効性を,利用者の心理的抵抗感を軽減し,その結果としてシステムの受容性を高め,利用促進につながる,という観点から評価した.
6.1 方法Davisは,情報システムの利用の予測・説明の評価方法として,TAMにおいて情報システムの利用に至る要因とされる「知覚された有用性」と「知覚された使いやすさ」について,それぞれ6項目から構成される評価指標を提案した[23].この評価指標を用い,著者が所属する大学の4名の研究者に対しアンケート調査を実施した.Davisによるオリジナルのアンケートの調査票は英語であるため,日本語に翻訳したものを使用した.表7は,アンケート調査で使用した調査票の設問を示している.調査票は「知覚された有用性」に関する設問(Q1~Q6),「知覚された使いやすさ」に関する設問(Q7~Q12)から構成される.調査票の選択肢について,「そう思う」を5,「そう思わない」を1とした5件法により回答を得て,得点化した.
| 「知覚された有用性」に関する設問 | そう思う | ややそう思う | どちらともいえない | ややそう思わない | そう思わない | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q1 | 論文投稿・公開支援システムを使うと,論文の公開依頼が迅速に達成できる | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q2 | 論文投稿・公開支援システムを使うと,論文の公開依頼の効率が向上する | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q3 | 論文投稿・公開支援システムを使うと,論文の公開依頼の生産性が向上する | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q4 | 論文投稿・公開支援システムを使うと,より多くの論文の公開依頼ができる | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q5 | 論文投稿・公開支援システムを使うと,論文の公開依頼が容易になる | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q6 | 全体として,論文投稿・公開支援システムは,論文の公開依頼に役に立つ | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| 「知覚された使いやすさ」に関する設問 | そう思う | ややそう思う | どちらともいえない | ややそう思わない | そう思わない | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Q7 | 論文投稿・公開支援システムについて,操作方法の学習は容易である | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q8 | 論文投稿・公開支援システムを自分の意図通りに動かすことは簡単である | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q9 | 論文投稿・公開支援システムの操作は明確でわかりやすい | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q10 | 論文投稿・公開支援システムは操作性に優れており,使い勝手が良い | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q11 | 論文投稿・公開支援システムの操作方法を上達するのは簡単である | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
| Q12 | 全体として,論文投稿・公開支援システムは使いやすい | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
表8は,4名の研究者(A~D)に対するアンケート調査の回答結果を示している.「知覚された有用性」に関する設問(Q1~Q6)と「知覚された使いやすさ」に関する設問(Q7~Q12)について,すべて3以上であり,論文投稿・公開支援システムの利用に肯定的な回答であった.
| 知覚された有用性 | 研究者 | 平均 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| A | B | C | D | ||
| Q1 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.75 |
| Q2 | 5 | 4 | 5 | 3 | 4.25 |
| Q3 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.75 |
| Q4 | 4 | 5 | 5 | 4 | 4.5 |
| Q5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
| Q6 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.75 |
| 知覚された使いやすさ | 研究者 | 平均 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| A | B | C | D | ||
| Q7 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
| Q8 | 5 | 5 | 4 | 4 | 4.5 |
| Q9 | 5 | 5 | 4 | 4 | 4.5 |
| Q10 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.75 |
| Q11 | 3 | 5 | 5 | 5 | 4.5 |
| Q12 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
アンケート調査の結果,論文投稿・公開支援システムに関して,すべての設問で回答結果は3以上であり,肯定的な回答が得られた.これは,論文投稿・公開支援システムが「知覚された有用性」と「知覚された使いやすさ」を向上させることを示している.TAMに基づくと,これらの要因の向上は,システム利用への肯定的な態度を形成し,結果としてシステム利用の促進につながる可能性がある.特に,「知覚された使いやすさ」は,システムの操作方法を身体的・精神的な努力を要せずに簡単に習得できると利用者が感じる度合いであり,これは利用者の心理的抵抗感の軽減に寄与する.以上より,論文投稿・公開支援システムは,利用者の心理的抵抗感を軽減し,その結果としてシステムの受容性を高め,利用促進につながる可能性があることが示された.
本論文では,即時OA化に向けたシステム改革をどのように加速させるか,という点に対するモデルシステムとして論文投稿・公開支援システムを提案し,開発した.さらに,実際の運用を想定したデータセットを用いて,論文投稿・公開支援システムの動作検証を実施した.動作検証の結果,問題なく動作し,本論文で提案した論文投稿・公開支援システムは,投稿から公開に至るフローをワンストップに支援することが可能であると確認できた.業務処理削減時間の評価の結果,論文投稿・公開支援システムを利用することで,従来の公開依頼フォームに比べ,論文の公開依頼の入力に費やされる時間が削減されることが示された.TAMによるシステムの受容性評価により,論文投稿・公開支援システムは,利用者の心理的抵抗感を軽減し,その結果としてシステムの受容性を高め,利用促進につながる可能性があることが示された.
論文投稿・公開支援システムの実運用に向けては,今後解決しなければならない課題がある.たとえば,香川大学の機関リポジトリであるOLIVEIIIへの論文登録において,登録用ZIPファイルの生成という課題が残っている.また,本番環境では,データベースやサーバマシンのバックアップ体制,負荷分散のためのオンプレミスゲートウェイのクラスタ化が必要となる.
今後は,上記課題の解決に加え,試験運用による有効性の評価や,利用者である研究者や図書館員の声をもとにした改善を実施し,香川大学における即時OA化を推進していく予定である.
本研究は,文部科学省による「オープンアクセス加速化事業」の支援により実施された.ここに感謝の意を表する.