比較政治研究
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正統性をめぐるパズル
―モロッコにおける君主制と議会政治
浜中 新吾白谷 望
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2015 年 1 巻 p. 1-19

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抄録

2011年初頭から体制転換をもたらす変動が中東地域を覆ったにも関わらず、君主制諸国は比較的安定を維持している。なぜ中東では君主制国家が共和制以上に安定性を維持しているのだろうか。

中東地域における君主制、とりわけ湾岸産油国の安定を説明するのに有用な理論として、レンティア国家論と王朝君主制論が存在する。しかしモロッコは産油国ではないため、レンティア国家論で説明できるアラブ君主制諸国のように、原油レントを使って国民から「忠誠を買う」正統性の調達手段を持たない。またモロッコは政府首脳に王族を配していないため、王朝君主制に基づく説明にも該当しない。このように君主制の安定をめぐる議論にはパズルが存在する。

本稿では、国王が多党制の議会を認め、各党の政治対立を調停することで、君主が正統性を調達しているという仮説に着目した。エリート間政治と大衆意識の連関についての前提条件が満たされた上で、仮説が正しいならば、観察可能な含意として、国民は議会制度に代表される「民主主義」を評価しているはずである。本稿では計量的実証分析を行うとともに、事例研究によってモロッコが「与党・野党のローテーション制」と呼ぶべき体制安定化メカニズムを持つことを明らかにした。

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© 2015 日本比較政治学会
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