2010 年 24 巻 5 号 p. 798-803
症例は73歳男性で,CT上2個の腫瘤影を指摘され,胸腔鏡補助下右下葉切除,右上葉部分切除とND2aを施行した.肺内転移を伴う肺腺癌と診断された.間欠的空気圧迫法を手術翌日まで施行したが,術後2日目に初めて起立した後,頻脈と低酸素症をきたした.Dダイマーが34.5μg/mlと上昇し,造影MDCTにより肺血栓塞栓症と診断した.肺血管造影で左肺動脈下幹に血栓を認め,second attackを予防するため一時的下大静脈フィルターを挿入し,すぐに未分画ヘパリンの静脈内投与を開始した.術後8日目に血管造影で血栓の遺残を認めず,下大静脈フィルターを抜去した.術後9日目に胸腔内出血を合併したため,抗凝固療法を中止し,ドレナージと輸血を施行したところ,出血はおさまった.ワルファリンによる抗凝固療法を3ヵ月継続し,肺血栓塞栓症も肺癌も再発していない.胸腔内出血を合併するも救命しえた,肺癌術後肺血栓塞栓症の1例を報告した.