2016 年 30 巻 5 号 p. 589-593
症例は76歳男性.胸部異常陰影を指摘され,精査の結果,右上葉肺腺癌cT1bN0M0, Stage IAの診断で手術目的に当科紹介となった.術前胸部CT検査で奇静脈裂と奇静脈葉が指摘された.辺縁不整な29 mmの腫瘍をS1bに認めた.腫瘍は奇静脈裂に接していた.手術時,腫瘍の奇静脈間膜への浸潤は認めず,奇静脈葉は奇静脈間膜と縦隔胸膜からなる囊状構造に収まり容易に尾側に引き抜くことができた.上縦隔のリンパ節郭清は奇静脈間膜を切開し,更に上縦隔胸膜を切開することで通常の上縦隔郭清が可能であった.奇静脈葉を伴う肺癌の手術報告は極めて少なく若干の文献的考察を加え報告する.