2016 年 30 巻 7 号 p. 821-826
症例は56歳男性.咳嗽あり近医を受診したところ胸部CTにて異常陰影を認め,診断・治療目的に当院紹介となった.気管支鏡検査やPET/CT検査が行われ,確定診断は得られなかったが原発性肺癌を否定できず外科的切除の方針となった.術中所見では胸腔内に少量の漿液性胸水とほぼ全面にわたる癒着を認めた.癒着を剥離し右上葉切除とリンパ節郭清を行った.永久標本では腫瘤内に多数の虫卵とともに虫体を認めた他,術後の血清学的診断にてウエステルマン肺吸虫症と診断された.
本疾患は西日本を中心に稀に認める寄生虫疾患で,多彩な臨床症状を示すことが知られている.本症例はPET/CT検査でFDG高集積を示し原発性肺癌との鑑別が困難であったが,十分な食餌歴の問診により本来は切除することなく診断・完治できた可能性が高い.若干の文献的考察を加えて報告する.