2017 年 31 巻 6 号 p. 784-788
40歳,男性.2週間ほど持続する左胸痛と発熱を認め,胸部X線写真では肺炎随伴性胸膜炎が疑われた.胸部CT検査と胸部MRIで上前縦隔に多房性腫瘤と囊胞性病変が疑われ,成熟型縦隔奇形腫左胸腔内穿破疑いと診断した.手術は胸骨正中切開でアプローチした.迅速病理検査では悪性所見を認めなかった.炎症で腫瘤と左肺の剥離が困難であり,縦隔腫瘤摘出及び左肺上葉部分切除術を施行した.病理診断として成熟型縦隔奇形腫を得た.穿破の原因としては腫瘍内膵酵素による組織融解が最も多いとされる.本症例でも,胸水中のアミラーゼは高値でなかったが,病理所見で膵臓組織を認め,その他に明らかな原因がないため,膵酵素による自己融解と考えた.成熟型縦隔奇形腫は穿破により多様な合併症を呈する.また,悪性転化例も報告されているため,完全切除が望ましい.