2021 年 35 巻 4 号 p. 337-343
症例は77歳男性.2年前に左上葉肺癌に対し胸腔鏡下左上葉切除術が施行されたが,術後慢性膿胸となり胸腔ドレナージと胸腔内洗浄が継続されていた.術後30ヵ月目に外来にて生理食塩水で胸腔内洗浄を施行した直後に急激に意識レベルが低下しショックを呈した.心電図でST上昇を認め,胸部CTで血管内の空気像を認めたため冠動脈空気塞栓症と診断し緊急心臓カテーテル治療を施行した.上行大動脈内と右冠動脈に流入空気を認めたためカテーテルを用いて吸引したところ状態は改善した.その後は軽度の脳空気塞栓症を認めたものの保存的治療とリハビリにより改善し退院となった.慢性膿胸に対する胸腔内洗浄で空気塞栓症をきたした症例はいくつか報告されているが,その機序は解明されていない.本症例では心臓カテーテルを用いて多量の流入空気を除去したことで重症化を防ぐことができたため,心臓カテーテル治療は空気塞栓症治療の第一選択になり得ると考えられた.