1996 年 10 巻 2 号 p. 182-190
胸部大動脈への浸潤が明らかな肺扁平上皮癌に対し術前化学療法, 左肺摘除と一時的バイパス下に大動脈の合併切除・人工血管置換を行い良好な結果をえた.拡大手術として有用と思われ, 手術手技の面から大動脈合併について検討した.下行大動脈外膜への浸潤例では送血用カニューラを用いた一時的バイパス下の下行大動脈の管状切除 (8cm) と再建の際, 前方腋窩開胸でもリンパ郭清を含め十分な術野が得られた (症例1).大動脈遠位弓部への浸潤に対し, 肺と大動脈をen blocに切除した例では, 左心耳からの左心バイパスの利用が妥当であり, 遠位弓部および鎖骨下動脈の再建には後側方切開が適していた.大動脈浸潤は組織学的には瘢痕性癒着であり, 術前化療によるstagedown と判定された.剥離時, 大動脈浸潤の有無の判断は困難であることから, かかる術式の採用は妥当である (症例2).一時的バイパスを駆使する方法は安全かつ根治的な切除を可能とするものであり, 積極的に試みるべき方法と考えられる.