2010 年 22 巻 4 号 p. 77-91
要旨:統合的な沿岸域管理の必要性が認識され,海域の一元管理体制が動き出す中,沿岸域をめぐる管理のあり方や日常的な管理主体のあり方を模索する重要性が高まってきている.本論では,開発要請を受けて漁業権を放棄した後もなお沿岸域で漁業を営む漁業者が,沿岸域管理における海域環境保全という面で果たしている役割の実態と特徴について,横浜市漁協柴支所を事例に考察した.柴支所の事例より,協働システムとしての漁業者による日常的な沿岸域管理の仕組みにおいて,漁業者が多様な利用者をつなぐコミュニケーションの促進,共通目的の構築,誘因の設定という役割を果たしていること,それらの行動が管理主体としての正当性を形作っていることを明らかにした.また,日常的な沿岸域管理主体として漁業者が機能するためには,沿岸域利用に対する社会的要請を反映した管理主体としての新たな正当性の獲得,漁業者集団を維持する努力が必要であることが導かれた.