経済地理学年報
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カナダの地域政策に関する一考察 : 政策の地位と性格に着目して
長尾 謙吉
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1992 年 38 巻 4 号 p. 262-281

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抄録

本稿では, 地域問題regional problemを相対的な地域間問題とし, 地域政策regional policyをこうした地域問題の解消を目指す政策としてとらえた. そして, 経験的な議論の素材として, 第二次世界大戦後のカナダの経験を取り上げ, 地域政策の地位や性格に着目し考察を行なった. 第二次世界大戦後におけるカナダの地域政策は, 1950年代後半に地域問題が認識されはじめ準備期に入り, 1960年代初頭に数種のプログラムが導入された. その後, ピアソンならびにトルドーという自由党政権のもと, 地域政策は着実に強化され, 1970年前後にピークを迎えた. しかし, 1974年には地域政策に改変が加えられ, 分権的な政策が導入される. 改変後も地域政策はそれなりの地位を有してきたが, 1980年代に入り景気後退の影響を受け, 自由党政権下でありながらも地域政策は大きく後退した. 1984年には, 新保守主義のイデオロギーを掲げる進歩保守党のマルルー二政権が誕生し, 地域政策は低い地位に甘んじている. また, 本稿では, DREE(地域経済開発省)を中心として地域政策が展開された1969年から1981年までの時期(DREE期)を特に取り上げた. このDREE期は, 他の時期に比べ地域政策の地位が高かった. これを支えたのは, 良好な経済動向, 自由党政権, 国家統合を重視するトルドー思想などである. また, DREE期と一口に言っても, 1974年を境とした前期と後期では政策の持つ内容に大きな違いがあったことは注目に値する. 前期には, 地域格差の縮小が図られたのに対して, 後期は連邦制度を反映した連邦一州の共同の措置が導入され, 州開発の色彩が強くなった. 結局, カナダの地域政策の消長は, 経済動向の状況に大きく左右されている. また, 政権政党をはじめとする政治的側面やケベック分離主義などの社会的・文化的側面も, 地域政策の地位や内容に少なからぬ影響を与えている. さらに, 地域攻策が政策体系の中で縁辺的なものでしかなく, かつ長期的な取り組みに欠けてきたことを考慮すれば, 地域格差の縮小を図るものとして, カナダの地域政策は十分な制度的枠組みを有してこなかったと言える.

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© 1992 経済地理学会
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