経済地理学年報
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タイにおける日系自動車産業の外延的拡大とその集積構造
宇根 義己
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2006 年 52 巻 3 号 p. 113-137

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抄録

本稿は,東南アジア随一の自動車産業集積が形成されているタイを対象に,日系企業の展開に注目して集積地域が外延的に拡大していった過程を捉え,企業間の取引連関の特性と集積構造を明らかにしたものである.1960年代に始動したタイ自動車産業は,1980年代前半までバンコク大都市圏を中心に展開していた.1980年代後半以降,日系自動車企業および同部品企業の進出が急増したことによって,集積地域はバンコク大都市圏から同大都市圏周辺の工業団地へと外延的に拡大した.特に,日系自動車部品企業は東部臨海地域の特定の工業団地に集中して立地した.これに対して,ローカル企業は依然としてバンコク大都市圏に集積している.日系自動車企業および同部品企業の取引連関は,バンコク大都市圏内・外といった立地地点の差異に関わらず集積全体に拡がっている.日系自動車部品企業は複数の自動車企業と取引しており,両者の間には系列関係を超えた取引が認められる.日産およびトヨタの系列部品企業は,系列親企業の生産規模や随伴立地要請の有無といった自動車企業のイニシアティブの強弱に左右されながら,系列を超えた取引連関を構築している.このような取引連関の下で,タイの自動車産業の集積地域は,集積全体に点在する自動車工場と,東部臨海地域の特定の工業団地で集積の中核をなす日系自動車部品企業,そしてバンコク大都市圏で集積を形成するローカル企業および日系企業とが,ネットワーク状の取引連関を構築している.

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© 2006 経済地理学会
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