経済地理学年報
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知的財産権を活用した農業振興の可能性(<特集>構造再編下の日本農業)
林 琢也
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2015 年 61 巻 1 号 p. 71-88

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抄録

本研究は,世界規模で展開するリンゴのブランドビジネス(クラブ制)の事例と国内のイチゴ産地の新品種の開発と活用戦略の分析を通じ,知的財産権を利用した日本の農業振興の可能性について考察することを目的とする.育成者権と商標権を用いたピンクレディーのクラブ制は,オーストラリアの州政府機関と生産者組織によって開発された.彼らは試行錯誤を繰り返しながらも農産物の輸出と知財戦略を組み合わせることによって1990年代以降,ヨーロッパ市場において発展した.ただし,パイオニアゆえに知的財産権を利用したブランド戦略には不備もみられる.しかし,彼らは生産と流通をコントロールすることで会員の利益を維持した.世界規模の会員の交流と連携はクラブ・システムと高品質ブランドの発展にとって極めて重要である.ゆえに,生産者と苗木業者,流通業者が目的志向で緩やかに繋がる組織の設立は,特定の地域の農業を振興するための方法とは異なる農業活性化の可能性があることを示している.他方,日本において都道府県の研究機関によって開発されたイチゴの新品種を生産する際のブランド戦略は栽培許諾と商標登録に特徴付けられる.さらに,近年は,日本のイチゴ産地において,アジアへの輸出が活発に行われている.しかし,日本の農産物が外国に輸出される一方で,各県の輸出品目はしばしば重複する.これは,日本国内での産地間競争が国を越えて再び行われることでもある.国の方針としては,日本の農産物輸出の拡大を重要な戦略としているものの,実際にそれを担う都道府県庁や県単位の農協組織では,自地域内の農産物の販売振興を優先するため,「守るべき基礎単位」に齟齬が生じる.したがって,日本の統一ブランドやクラブ制のようなシステムを専門に扱うことのできる機関等が必要である.

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© 2015 経済地理学会
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