国全体の人口減少が進む中で大都市への人口集中は継続しており,相対的に小規模な都市の衰退はいよいよ深刻である.種々の産業振興策が図られてきたが,全国的な人口配置をリバランスするほどの成果は挙がっていない.Krugman(1991) に端を発する空間経済学の考え方に基づけば,距離費用が低下する環境にあっては大都市への集中が進むのはいわば必然である.
本稿ではこれを踏まえ,取引における距離抵抗と収穫逓増を基本原理とした産業の立地変化の実証を行う.取引における均衡状態と,立地における非均衡を前提としたモデルを構築することで,ある時点の潜在的立地条件が徐々に反映されていく緩慢な立地変化を表現し,この条件下では相対的小都市への集中も発生しうることを明らかにする.
実証には (株) 帝国データバンクが保有する140万余企業のデータを用い,2011年から2014年の3年間の日本全国の広域的な移転行動の説明を行った.88の産業分類,231の都市圏を用いた詳細な立地評価をし,小都市への立地可能性を評価した.
その結果,評価した立地条件に基づく均衡状態へと向かう企業立地の緩慢な変化が生じており,相対的に小さな都市においても産業の立地可能性が存在することが明らかになった.また,産業の種類によってリージョン単位で立地合理性が生ずるもの,国土縁辺部でも局地的な立地合理性が成立しうるものがあることが分かり,地域の産業振興施策に一定の示唆を与える結果となった.