2010 年 30 巻 5 号 p. 693-696
症例は84歳女性。道路を歩行中に前のめりに転倒した。自力歩行で帰宅したが,その数十分後に腹痛が出現したため救急車で当院へ搬送された。来院時の腹部理学所見,血液検査所見,および画像診断には消化管穿孔を疑う所見はなかった。しかし,腹部の自発痛が強かったため観察入院とした。入院後20時間を経過した時点でSpO2が低下し,腹部の膨隆と腹膜刺激症状が出現した。腹膜炎の併発を疑って緊急CTを施行したところ腹腔内に遊離ガス像を認めた。以上より消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。回盲部より約20cmの回腸に7mm大の穿孔を認め,同部を含む小腸部分切除術を施行した。病理組織学的所見では,穿孔部に隣接する回腸の固有筋層が欠損していた。したがって,転倒に伴う急激な腹圧上昇が筋層欠損部の抵抗減弱部に加わり穿孔を引き起こしたものと推測された。