2021 年 41 巻 6 号 p. 507-510
症例は81歳,男性。右鼠径部の膨隆と右下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した。右鼠径ヘルニア嵌頓と診断し用手還納したがその後も嘔気と右下腹部痛が持続していた。腹部CT検査を施行すると右下腹部に小腸のclosed loop形成を認め,ヘルニア偽還納に伴う絞扼性腸閉塞と診断し緊急手術を施行した。ヘルニア囊に包まれ嵌頓した小腸を認め,嵌頓を解除すると腸管の血流障害は改善した。腸管は切除せず,meshを用いてヘルニアを修復した。術後経過は良好で第7病日に退院した。ヘルニア偽還納はまれな病態であるが,絞扼性腸閉塞であり基本的に緊急手術を要する。また腸管壊死に至り,腸管を切除した報告例も少なくない。鼠径ヘルニア嵌頓の整復後も腹痛や腸閉塞症状が遷延する場合,壊死腸管の還納や偽還納の可能性がある。早期に診断し,手術を行うことで腸管を温存できる可能性がより高まると考えられる。